ここから本文です。

薬物治療

私たちは、DMDに欠損しているジストロフィンとよく似た蛋白質であるユートロフィンを使用した薬物療法の可能性に注目して研究を進めています(ウイルスベクターを用いた遺伝子治療ページの図1)。ユートロフィンはジストロフィンに構造が似ている細胞骨格蛋白質ですが、正常では成熟した筋肉には見られず、幼若な筋や再生した筋肉にのみ一過性に発現するだけです。いろいろな実験の結果から、ユートロフィンはジストロフィンの機能をある程度代償できることが分かっていますが、ある程度の期間型つとなくなってしまうもののようです。

もしDMDの患者さんの筋肉にユートロフィンが存在し続けたら、症状が軽減出来るのではないでしょうか。私たちは、筋肉が感染などによって強い炎症を起こすとユートロフィンが増えることを見出しています。これからユートロフィンの発現にかかわる仕組みを解明し、薬物としてのユートロフィンの治療への実用化を考えています。ユートロフィンの他にも、DMDに対して薬として使える可能性がある物質が考案されています。

ある種の抗生物質(アミノ配糖体)を大量にmdxマウスに投与すると、マウスの症状がよくなったのです。mdxマウスはジストロフィン遺伝子のうちの一カ所が点変異によってそれ以上蛋白への翻訳が起こらない「停止信号」(停止コドンといいます)になっているため、ジストロフィンは途中まで作られても完全な長さにならず不安定なので、すぐに壊れてしまいます。アミノ配糖体を大量に投与すると、この停止信号を読み飛ばしてしまう働きがあるので、全長型のジストロフィンが合成されるという理屈です。

この方法を用いて早速様々な停止コドンをもつDMD/BMD患者さんに治験が行われました。残念ながら、投与前後でジストロフィンの発現には変化がありませんでした。これは副作用を考慮して少量しか使用しなかったためかもしれず、副作用の少ない別な薬剤を使ったり、薬を増量したりする試みがなされています。その他に、核の中によく似た配列の遺伝子を入れると、もともとの遺伝子と入れ替わるという現象(相同性組み替え)が生ずることを利用し、変異部分を修復する方法があります。このやり方ではこれまでは発現量が極めて少ないことが問題でしたが、実際にジストロフィンの発現を証明しているグループもあります。