ここから本文です。

再生移植治療

ウイルスベクターを用いた方法を実用化するためには、いくつか問題点が残っています。たとえば、全身の筋肉(その中には横隔膜や心臓の筋肉という、直接注射しにくいところも含まれています)にどうやってベクターを行き渡らせるか、あるいはウイルスベクターが異物として体内の免疫系に除去されるのをどうやって防ぐか、などの点です。輸血や骨髄移植のように、正常な筋肉の細胞そのものを移植する方法はないものでしょうか。

最近、DMDのような難病の治療に、未熟な状態の細胞を移植する研究が注目されています。未熟な細胞は、免疫反応を起こしにくく、また点滴するだけで血流にのって全身にたどり着くことができるからです。とくに、side populationと呼ばれる細胞(SP cell)が有効ではないかと期待されています。SP cellは骨髄、筋肉、脳など様々な臓器から採取できる特殊な細胞の集団で、いろいろな組織・細胞に分化してゆく能力のある細胞(幹細胞)が多く含まれています。

このSP cellを骨髄移植の要領で移植すると骨格筋へも分化することが報告されています。ジストロフィンを持たないマウスに正常マウスの筋肉や骨髄由来のSP cellを静脈内に投与したところ、骨格筋内の少量の細胞がジストロフィンを発現したことが発表されています。同じ方法が人間でも応用できるかもしれません 。SP cellはいろいろな性質を持った異なる細胞の集団と考えられていますが、詳しい性格についてはまだよく分かっていない点も多いので、現在研究が進んでいる最中です(図4)。

図4

図4.骨格筋細胞の増殖と分化
  • 筋肉が再生するときは、間葉系幹細胞が元になる。この細胞は、骨格筋以外にも、心筋、血液系細胞、骨・軟骨など、様々な組織・細胞に分化することができる。
  • 間葉系幹細胞のうちの一部が骨格筋系譜の幹細胞、さらに筋芽細胞(myoblast)へと分化した後、融合して筋管(myotube)となり、筋線維(myofiber)へと成熟する。
  • 筋芽細胞の一部は筋衛星細胞(satellite cell)として不活発な状態で静止している。骨格筋が障害を受けると筋衛星細胞は増殖し、筋衛星細胞同士、またはすでにある筋線維と融合して骨格筋を再生させる。
  • この際、一部の細胞は再び筋衛星細胞となる。最近、脳や骨髄から分離されたside population cell(SP cell)が培養細胞系で骨格筋に分化したと相次いで報告されているが、その骨格筋発生または筋再生における位置付けや役割には定見がない。

わたしたちは、このSP cellの正確な正体を突き止めると同時に、どうやったらSP cellが効率よく筋細胞になってゆくか研究を進めているところです。