ここから本文です。

ミトコンドリア病(mitochondrial diseases

ミトコンドリア病には患者会があります。直接にお問い合わせをお願いいたします。

一般社団法人こいのぼり(外部のサイトを開きます)

(ミトコンドリア病治療を目指す患者・家族とともに真に有効な治療法の確立を目指す)

 

ミトコンドリア病患者・家族の会(略称:MCM家族の会)(外部のサイトを開きます)

(HP の運営(情報発信・会員用メーリングリストを活用した交流)、会員に対する大阪地区勉強会、東京地区勉強会、情報誌の発行)

 

(ニュース)ミトコンドリア病治療薬 承認へ 川崎医科大・砂田教授の治験で(外部のサイトを開きます)

ミトコンドリアはエネルギーを産生する細胞内小器官です。ミトコンドリアはよく車のエンジンに例えられます。もしミトコンドリアに異常をきたすと、大量のエネルギーを必要とする骨格筋、中枢神経系にまず異常をきたすのです。ミトコンドリア病はしばしばミトコンドリア脳筋症と呼ばれるのはそのためです。心筋も当然侵されるし、難聴、糖尿病、腎障害などの合併症も多くみられます。ミトコンドリア病の60~70%は以下に述べるいわゆる3大病型に属します。3大病型以外ではLeigh脳症、チトクロームc酸化酵素欠損が最も多く報告されています。3大病型とLeigh脳症の臨床的まとめを表6に示しました。

表6:ミトコンドリア病の3大病型とLeigh脳症の特徴(CPEO、MELAS)

病型 CPEO
(慢性進行性外眼筋麻痺)
MELAS
(メラス)
家族歴(母系遺伝)
発症年齢 小児~70歳 2~15歳
臨床症状 低身長
知能低下 -~±
筋力低下
感音性難聴
周期性頭痛・嘔吐 [+]
皮質盲 [+]
片麻痺・半盲 [+]
痙攣 [+]
ミオクローヌス -(注釈1)
小脳失調
外眼筋麻痺 [+]
網膜色素変性 [+]
心伝導障害 [+]
検査所見 高乳酸血症
髄液タンパク質上昇 -(注釈1)
CT異常:脳萎縮
局所性低吸収域,
淡蒼球石灰化
筋生検 RRF
SSV -(注釈1)
酸素欠損(複合体) Ⅳ>Ⅰ
mtDNA異常 欠失(種々の大きさ) 点変異(3243,3271)

表6:ミトコンドリア病の3大病型とLeigh脳症の特徴(MERRF、Leigh脳症)

病型 MERRF
(マーフ)
Leigh脳症
(リー脳症)
家族歴(母系遺伝) +(20%のみ)
発症年齢 小児~40歳 乳児
臨床症状 低身長
知能低下
筋力低下
感音性難聴
周期性頭痛・嘔吐
皮質盲
片麻痺・半盲
痙攣 [+]
ミオクローヌス [+] +~-
小脳失調 [+]
外眼麻痺
網膜色素変性
心伝導障害
検査所見 高乳酸血症
髄液タンパク質上昇
CT異常:脳萎縮
局所性低吸収域,
淡蒼球石灰化
脳幹、
脳基底核の変化
筋生検 RRF
SSV
酸素欠損(複合体) Ⅳ(10%のみ)
mtDNA異常 点変異(.8344) 点変異(8933)(注釈2)
CPEO:
chronic progressive external ophthalmoplegia,
MELAS:
mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis,and stroke-like episodes,
MERRF:
myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers,
RRF:
ragged-red fibers,
SSV:
strongly SDH-reactive blood vessels,
CT:
computed tomography,
mtDNA:
mitochondrial DNA
注釈1:
まれに+
注釈2:
患者の約20%のみ
[ ]:
重要な鑑別点

病因、病態、病理

表6に示したように3大病型にはそれぞれ疾患特異的なミトコンドリアDNA(mtDNA)変異をみます。またLeigh脳症の約20~30%もmtDNAの変異によることが知られています。チトクロームc酸化酵素欠損の一部は核遺伝子の変異によることが明らかにされています。それはチトクロームc酸化酵素の合成に関係する遺伝子、SURF1遺伝子の変異によるものでした。この病気は核遺伝子の変異ですから、常染色体劣性遺伝をとります。

mtDNAは環状のDNで、16,569塩基対からなっていて、イントロンはなく全てエクソンからなっています(図30)。われわれの体の細胞のミトコンドリアは全て母親由来であるのでmtDNA変異の主な病気(慢性進行性外眼筋麻痺症候群を除く)は母系遺伝を示します。

図30:ミトコンドリアDNA(mtDNA)と主な疾患の変異
  • 斜線部はtRNA コード領域,12S,16SはrRNA コード領域。
  • ND:複合体Ⅰ
  • CO:シトクロムcオキシダーゼ(複合体Ⅳ)
  • ATP:ATP合成酵素
  • cyt b:シトクロムbのコード領域
  • CPEOの矢印はこの範囲内でいろいろな長さの欠失を見る。
  • 外側:重鎖,内側:軽鎖。

MtDNA変異をもつ疾患では、全てのミトコンドリアが異常ではく、正常なものも共存します(それはheteroplasmyと呼ばれています)。正常:変異DNAの比率は一定ではなく、個体間、同じ個体でも組織間で異なります。変異したミトコンドリアがより多く蓄積した組織ほど、より強い症状を示すと推定されています。たとえば膵臓に限って、変異mtDNAが多くあれば膵臓が侵され、糖尿病が前景に立ちます。このようにある特定の組織が侵されることを組織特異性(tissue specificity)といいます。

ミトコンドリア病の大半は骨格筋が侵されるので、骨格筋細胞のミトコンドリアに形態学的な異常をみます。筋線維内のミトコンドリアは巨大化し、その数も増加します。増加したミトコンドリアはGomoriトリクローム変法という染色で赤染し、すこしボロボロした感じを与えるので。赤色ぼろ線維(ragged-red fiber: RRF)とよばれています(図31)。

図31:赤色ぼろ線維

赤色ぼろ線維。
ゴモリトリクローム変法染色という簡単な染色で、正常筋(左:N)では赤い顆粒状のミトコンドリアはほとんど見えない。ミトコンドリア病(右:Mit Dis)では筋線維の大小不同と赤く染まる筋線維(赤いのは全て異常に増加したミトコンドリア)がみられる。多くの場合、この赤色ぼろ線維があるとミトコンドリア病と診断できる。

電子顕微鏡で見るとミトコンドリアは巨大化し、複雑に増殖したクリステ(cristae)をもち、しばしば類格子様封入体(paracrystalline inclusion)をもっています。

症状

慢性進行性外眼筋麻痺症候群chronic progressive external ophthalmoplegia:CPEO)

本疾患の約70~80%患者さんにミトコンドリアDNA(mtDNA)の欠失をみます。欠失とは遺伝子の一部が欠けていて、遺伝子が短くなっていることです。欠失の部位は個人によって異なり、一定ではありません。ごくまれに優性遺伝をみますが、大半(95%以上)は突然変異によるもので遺伝性はありません。

発症は小児期から成人までと幅広く、10~20歳に気付かれることが最も多いのです。まず眼瞼下垂(上まぶたがさがること)で気付かれます。病初期は片方のみのこともありますが、早晩両側性の眼瞼下垂となります。眼球運動制限もあり、進行すると全方向への運動が制限されます。眼症状のみのものもいますが、大半は易疲労性とか四肢の筋力低下も伴います。眼症状、網膜色素変性、心伝導障害を伴うものはKearns-Sayre syndrome(KSS)とよばれています。KernsSayreはこの病気をみつけた人の名前です。この病気では難聴、低身長、髄液の蛋白増加をよく認めます。また幼少時では知的退行をしばしば伴います。

血清乳酸値の上昇、筋生検で赤色ぼろ線維(ragged-red fiber)の存在の確認、チトクロームc酸化酵素染色で酵素活性が欠損した線維があること(部分欠損)で、診断が確定します。骨格筋内のmtDNAには変異がみられますが、血液から分離したものにはみられません。すなわち、本症は血液では遺伝子診断は出来ず、筋生検が必要です。

治療法には特別なものはありません。コエンザイムQ製剤(ノイキノン)の多めの投与で効果がある人がいます。目が下がってものが見ずらい方には、二重瞼を作るアイプッチというのが化粧品屋さんにあります。いちど試されてはいかがですか。

メラスmitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes:MELASは神経学用語集では、「ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様症候群」と訳されていますが、一般にはメラスと呼ばれています)

脳卒中様症状を主症状とする疾患で、母系遺伝(母から子どもへの遺伝)をとります。mtDNAの転移(t)RNALeu(UUR)のコード領域にある3,243番目のA→G変異(3243変異)をとるものが80%、3271番目のT→C変異が10%です。

本症は母系遺伝をとるので、母親、同胞の多くは変異をもっています。しかし変異mtDNAをもっていても、無症状なものから、非特異的症状(筋力低下、易疲労性、低身長、糖尿病など)のみ、典型的メラス症状を示すものまでと幅があります。病理学的に血管(小動脈)の異常がある(血管平滑筋に異常ミトコンドリアが増加している)ことから、血管系の異常が本症の発症に大きく関与していると考えられています。

成人発症もありますが、多くは小児期に最初の脳卒中に似た症状が出現します。患者さんの80%は15歳までに第1回目のエピソードを経験します。脳卒中様症状が出現する前から、低身長、易疲労、軽度の筋力低下をみることが多いとされています。脳卒中様症状は嘔吐を伴う発作性の頭痛、痙攣、意識障害で、回復後に片麻痺、視力障害(多くは一過性)を残します。脳卒中様症状は数時間から数日続き、その間は高乳酸血症による代謝性アシドーシスをみます。成人にみられる脳卒中と異なり、麻痺のような症状は一過性で通常は速やかに快復します。

発作症状を繰り返すにつれ、知的退行、てんかん、半盲(時に両側性)、筋力低下が進行し、るいそう、感染、腎不全などでをみることもあります。

血清とくに髄液の乳酸値が正常の2倍以上と高くなります。脳CT/MRIでは多巣性の脳梗塞類似の所見を後頭部優位に認めます(図32)。

図32:メラスの脳MRI(T1強調画像)

後頭部(写真の左下の方で、矢尻印で囲んである部位)は薄くみえる(シグナル強度が低い)。この部は血流が少なく脳梗塞の後の所見に似る。メラスではこのように、後頭葉に病変が強い傾向がある。
病気が進行すると、本症のように脳室の拡大、脳の萎縮が目立つようになる。

ただし、罹患部位は必ずしも大・中血管の支配領域とは一致しないところが、成人の脳梗塞と異なるところです。筋生検では赤色ぼろ線維とともに、約80%に血管系の異常(コハク酸脱水素酵素染色で濃染する血管:strongly succinate dehydorgenase (SDH)-reactive blood vessels:SSV)(図33)をみます。ミトコンドリアDNA変異は血液から分離したDNAで検査ができます。

図33:筋組織内の異常血管(SSV)

ミトコンドリアをよく染めるコハク酸脱水素酵素(succinate dehydrogenase:SDH)
染色すると、正常筋(左:N)では血管はほとんど染まらない。
メラス(右:MELAS)では血管壁が強く染まり、異常なミトコンドリアが血管壁に蓄積していることが分かる。

治療には根本的なものはありません。発作時には輸液によるアシドーシスの補正、ステロイド投与、酸素吸入を行います。カルジオクロームの静注が有効であるとの報告があります。またジクロロ酢酸という化学物質が乳酸アシドーシスを改善し本症に有効とされています。

マーフmyoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers:MERRFは神経学用語集では赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群と訳されているがマーフと呼ぶのが一般的である。あるいは福原病ともよばれる)

マーフはミオクローヌス、全身性のてんかん発作、小脳性失調を主症状とし母系遺伝をとります。約90%の患者にmtDNAのtRNAlysコード領域の8,344番目のA→G変異がみられ、これは血液から分離したDNAでも証明できます。MELASでみられたように、母や同胞は無症状から典型例までと幅があります。

発症は小児期から成人までと幅広いです。多くはミオクローヌス(筋肉がピクピクと動く現象です)、小脳失調で気付かれます。けいれん発作は全身性の強直、間代性です。多くは発症前から易疲労性が見られます。経過とともに痙攣、筋力低下、知的退行が進行していきます。約40%の患者に心筋症を合併します。

検査では血液、特に髄液の乳酸値の上昇がみられます。筋生検では赤色ぼろ線維、チトクロームc酸化酵素部分欠損、SSVなどが80%以上の患者でみられます。

治療は対症的で、メラスと同じです。バルプロ酸はミトコンドリアのカルニチン代謝に影響するので使用しない方がよいと考えられています。

リー(Leigh)脳症Leigh encephalomyelopathy

本症は脳基底核、脳幹部に左右対称性の壊死性病変をみる神経病理学的診断名(病理解剖をして、はじめて原因が分かる診断名)でした。しかし、画像診断の進歩により、病変部位が確認できるようになって、臨床診断名となっています。

典型例は乳児期に発症します。発育発達の停止、筋力・筋緊張低下、呼吸障害、知的退行を主症状とします。進行例では筋緊張が亢進することもあります。呼吸不全、るいそうで発症後数年で死の転帰をとることもありますが、中には治療により改善する人もいます。血清、髄液の乳酸値は上昇します。脳CT/MRIで脳基底核や脳幹(脳の中心部にあります)の異常が診断的です(図34)。

図34:リー脳症の脳CT像

脳の基底核(線条体)に左右対称性の壊死病変(→)がみえる。

本症の原因は一つではありません。ミトコンドリアDNAのATPaseコード領域に変異を持つ患者さん(8,993番目のT→GあるいはT→C変異など)が約20~30%みられ、それは母系遺伝をとります。ミトコンドリアDNAに変異がない例が多く、それは常染色体劣性遺伝をとると考えられています。リー脳症の約20%の患者さんではミトコンドリアにあるチトクロームc酸化酵素欠損が欠損しています。この場合はミトコンドリアDNAでなく、核DNAがコードするSURF1という遺伝子に変異があります。ミトコンドリア病で核の遺伝子に変異がみつかった珍しい例です。原因が分かったものにピルビン酸脱水素酵素複合体(pyruvate dehydrogenase complex:PDHC)欠損がありますが、これはリー脳症の数%を占めるだけです。ですから、リー脳症の半数以上は原因となる異常が見いだされていないことになります。

治療法としては特別なものはありません。ただ、中にはビタミンB1が著効する例がある(B1依存性PDHC欠損など)ので、ビタミンの投与を行います。またアシドーシス(血液の酸性度が強くなる)にはジクロロ酢酸が効果あります。

チトクロームc酸化酵素欠損cytochrome c oxidase:COX deficiency 

ミトコンドリア病には酵素欠損がみいだされ、生化学的な分類での診断名があります。その中で最も多いのがチトクロームc酸化酵素(COX)(複合体Ⅳ)欠損です。この酵素欠損でリー脳症にもなります。リー脳症以外の疾患として次の2つの病気が代表的です。

乳児重症型(fatal infantile form

乳児期から筋力・筋緊張低下、呼吸不全、意識障害、強いアシドーシスを伴い1歳以下で死亡する重症型です。約半数に糖尿、蛋白尿、汎アミノ酸尿(DeToni-Fanconi-Debre症候群)をともないます。

乳児良性型(benign infantile form

きわめてまれでまだ日本では、10例以下の報告しかありません。症状は乳児期に筋力・筋緊張低下、呼吸不全などで、人工呼吸器が必要なこともあります。1歳過ぎから症状は改善し、多くは全く正常となります。一部は完全には回復しません。中枢神経障害はありません。

上記いずれの疾患も常染色体劣性遺伝と考えられています。筋生検では赤色ぼろ線維をみとめ、COX活性は組織化学的にも生化学的にも低下ないし欠損しています。ただ乳児良性型では酵素の活性は次第に上昇していきます。

メンギーmitochondrial neurogastrointestinal encephalomyopathy:MNGIE) 

常染色体劣性伝形式をとるまれな疾患です。通常10代から20代に疾患に気づかれます。最も目立つ症状は、著明な全身のやせと消化器症状(消化管運動不全や下痢)で、他に、眼瞼下垂、末梢神経障害による手足のしびれなどが見られます。筋生検では赤色ぼろ線維、チトクロームc酸化酵素部分欠損など、何らかのミトコンドリア異常の所見が見られます。骨格筋のミトコンドリアDNAを調べると、ミトコンドリアDNAの欠乏(量の減少)や多重欠失と呼ばれる変異が検出できます。

この疾患は、チミジン・ホスフォリラーゼという酵素の欠損で起こります。チミジン・ホスフォリラーゼは、DNAの原料であるチミジンを分解する酵素ですが、この酵素がないために、患者さんの血液中では、チミジンの濃度が通常の60倍程度にまで増加しています。この高濃度のチミジンが、正常なミトコンドリアDNAの合成を妨げているのだと考えられています。

血液中のチミジン濃度とチミジン・ホスフォリラーゼ活性を測定することで、診断を付けることが出来ます。チミジン・ホスフォリラーゼ遺伝子の変異を見いだせば、さらに確実な診断になります。血液10mlで、これら全ての検査を行うことが出来ます。