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肢帯型筋ジストロフィー(limb-girdle muscular dystrophy:LGMD)

デュシェンヌ型、ベッカー型、顔面肩甲上腕型、先天型筋ジストロフィーでは患者さんを診察すれば特徴的な臨床像があるので、臨床症状や筋生検の所見から診断できます。

たとえばデュシェンヌ型では、患者は男児で3歳位から症状があり、ふくらはぎに筋肥大がある。筋生検すれば筋ジストロフィーの所見があり、ジストロフィンが欠損しているなどからです。しかし、そのような特徴的な所見がなく、ただ近位筋が好んで侵される筋ジストロフィーの患者さんが沢山おられます。診察してみて、今まで知られているどのタイプの筋ジストロフィーとも診断できない時、私たちは肢帯型筋ジストロフィーとよんでいます。多くは常染色体劣性遺伝ですが、まれには優性遺伝もあります(国立精神・神経医療研究センターのトランスレーションメディカルセンターの統計では優性遺伝は5%以下です)。このような本症の位置づけの経過からも解るように、肢帯型の原因は沢山ある(多因性である)と以前から考えられていました。近年の分子生物学的な進歩は見事にそれを証明したのです。

肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の分類

下記の表には遺伝子の変異から分類されてきた肢帯型筋ジストロフィーの一覧表です。

表:常染色体優性遺伝

常染色体優性遺伝 遺伝子座 遺伝子産物 アレル病
LGMD1A 5q31 マイオチリン  
LGMD1B 1q11-21 ラミン A/C AD-エメリ・ドレイフュス型
LGMD1C 3p25 カベオリン-3  
LGMD1D 2q35 デスミン  
LGMD1E 7q36 HSP40/DNAJ  
LGMD1F 7q32.1-q32.2 ?  
LGMD1G 4q21 ?  
LGMD1H 3q23-p25    

表:常染色体劣性遺伝

常染色体劣性遺伝 遺伝子座 遺伝子産物 アレル病
LGMD2A 15q15.1-q21.1 カルパイン3  
LGMD2B 2p13 ジスフェルリン 遠位型筋ジストロフィー
(三好)
LGMD2C 13q12 γサルコグリカン  
LGMD2D 17q21-q21.33 αサルコグリカン  
LGMD2E 4q12 βサルコグリカン  
LGMD2F 5q33 δサルコグリカン  
LGMD2G 17q12 テレソニン  
LGMD2H 9q31-q34 TRIM32  
LGMD2I 19q13.3 FKRP 先天型筋ジストロフィー 1C
LGMD2J 2q31 タイチン 遠位型筋ジストロフィー(Udd)
LGMD2K 9q34.1 POMT1 Walker Warburg症候群(WWS)
LGMD2L 11q14.3 アノクタミン5 福山型先天性筋ジストロフィー
LGMD2M 9q3 フクチン WWS/筋・眼・脳病(MEBD)
LGMD2N 14q10-q24 POMT2 MEBD
LGMD2O 1p34-p33 POMGnT1  
LGMD2P 3p21 ジストログリカン  
LGMD2Q 8q24.3 プレクチン  
LGMD2R 2q35 デスミン  
LGMD2S 4q35 TRAPPC11  
LGMD2T 3q21.31 GMPPB αジストログリカノパチー

AD:常染色体優性 FKRP:fukutin-related protein POMT1:protein-O-mannosyltransferase 1

これからも次々と肢帯型の患者さんの中から新しい遺伝子の異常がみつかり、肢帯型筋ジストロフィーの種類はもっと増えるでしょう。表では優性遺伝は(5%以下と少ないのですが)LGMD1、劣性遺伝をとるものはLGMD2に分類されています。肢帯型といっても、その原因は多岐にわたることが明らかにされたのです。遺伝子診断や筋生検の免疫組織化学的染色や遺伝子検査により、肢帯型の患者さんの60-70%は、あの複雑な分類のどのタイプに当てはまるか決定できるようになっています。

病因、病態、病理

上で述べたように肢帯型は原因が多岐にわたっているので、筋生検で免疫組織学的染色をしたり、遺伝子解析をしても半数以上の人は原因が何か分かりません。優性遺伝をとるものには5つの型が知られています。日本ではこの5つの型に相当する病気を持った人は少数しか報告されていません。

常染色体劣性遺伝をとるLGMD2Aは蛋白分解酵素であるカルパイン3遺伝子に変異がみられています。カルパイン3という酵素は筋肉が収縮するときに必要な細い糸のような構造物の一つであるタイチン(コネクチンともいいます)を調節しています。しかし、この病気ではタイチンは正常に発現されています。この酵素が異常となると、なぜ筋線維が壊死なるのかそれは不明です。いろいろ調べてみると肢帯型の患者さんの30%位はこのカルパイン3の遺伝子変異をもっていることが明らかにされています。カルパイン3遺伝子に変異をもった肢帯型のことはカルパイノパチーともよばれます。

LGMD2Bはジスフェルリン(dysferlin)という遺伝子に変異があり、ジスフェルリンが欠損する病気です。このジスフェリルンは筋細胞膜にあります。筋生検をして、免疫組織学的染色でジスフェルリンが欠損していることを証明すれば診断は可能です。最近の研究ではどうも日本の肢帯型の患者さんの30%位はこのジスフェルリン欠損のようです。

最近注目を集めているのがLGMD2C-2Fで、いずれもジストロフィン結合蛋白であるサルコグリカン(サブユニットα、β、γ、δ)(デュシェンヌ型筋ジストロフィーページの図6参照)の遺伝子に変異があります。サルコグリカン欠損はLGMDの中でもかなり特徴ある臨床症状をとるので、サルコグリカノパチー(sarcoglycanopathy)と総称されています。デュシェンヌ型あるいはベッカー型によく似ていますが、常染色体劣性遺伝をとるので、男性と女性の比がほぼ同じです。

病理学的にはごく軽度の筋ジストロフィー変化から、強い変化をみるものまでと多彩です。デュシェンヌ型より慢性に経過するものが多いので、ベッカー型に似ています。肥大線維、筋線維の分割(fiber splitting)、中心核の増加をみます。また筋原線維間網の乱れ、高頻度に分葉線維(lobulated fiber)をみるのが特徴的で、この分葉線維はカルパイン3欠損に多いといわれています(肢帯型筋ジストロフィーページの図16参照)

臨床症状

優性遺伝をとるものはきわめてまれで、日本ではまだ表のLGMD1の5型に相当する人はごく少数しか見つかっていませんので、ここでは常染色体劣性遺伝の患者さんについて述べます。

発症年齢は小児期から50歳代以降までと幅があります。病気の種類が多いのですから、症状もいろいろあるということはよく理解できます。筋力低下のような臨床症状はなく、検査上血清クレアチンキナーゼ(CK)値が高いだけという人もいます。一方たまにはデュシェンヌ型と変わらぬ重症経過をとるものもいますが、全体からみると病気はデュシェンヌ型より軽く、進行も遅いです。

近位筋(腰帯筋)が好んで侵されます。顔面筋罹患はありません。最初に気付かれる症状は歩行異常に関するものです。走れない、転びやすい、階段昇降困難などです。立ち上がるときに努力がいり、しばしばGowers徴候(立ち上がるときに膝に手をあてて立つ)をみます。下腿の仮性肥大はないか、あっても軽度です。関節拘縮は下肢にみられ、早期から尖足をみるものもあります。歩行不能となると、全身の関節が拘縮するようになるのはデュシェンヌ型と同じです。ただし、心合併は少なく、呼吸不全も少ないので、生命的予後はよいとされています。

肢帯型筋ジストロフィーの代表的疾患

サルコグリカノパチー(sarcoglycanopathy

ふくらはぎに仮性肥大があって、デュシェンヌ型に多少似るが、常染色体劣性遺伝をとる疾患が知られていました。それは本邦では悪性肢帯型筋ジストロフィー(三好)、欧米の教科書ではchildhood muscular dystrophy(Walton)などとよばれていたのです。Tunisia地方に多くみられる患者はsevere childhood autosomal recessive muscular dystrophy:SCARMDとして報告されています。これらの疾患はジストロフィン結合蛋白であるサルコグリカン複合体(デュシェンヌ型筋ジストロフィーページの図6参照)の欠損であることが明らかにされました。最も多いのはαサルコグリカン(adhalinともよばれる)欠損です。α、β、γ、δいずれのサブユニット遺伝子の変異も見つかっています。いずれのサブユニットの遺伝子の欠損でも、常染色体劣性遺伝をとり、臨床症状はよく似ています。臨床症状や筋生検からはサルコグリカノパチーの診断は容易です(図14)。しかし、どのサブユニット遺伝子変異であっても、αーδ全てのサブユニットの欠損をみるので、どのサブユニットの遺伝子の変異かはそれぞれの遺伝子を直接検査しないとわかりません。

カルパイン3異常症(カルパイノパチー)

カルパイン3とは筋構造蛋白の一つであるコネクチン(titinともよばれる)の調節酵素です。分子量94kdで、4つの主な働きをもつドメインをもっています。最近の国立精神・神経センターの研究では日本人の肢帯型筋ジストロフィーの約30%は本症であるとのデータがだされています。症状は比較的軽度で成人発症例もまれではありません。子どもでは血清CK値が高いだけで無症状の人もいます。臨床的にはこれといった診断的所見はありません(図15)。筋病理では比較的高率に分葉線維(lobulated fiber)をみます(図16)。

図14

図14:サルコグリカノパチーの女児例

手足の力が4-5歳から弱くなり、ふくらはぎに肥大があり、デュシェンヌ型に似る。
筋生検でサルコグリカノパチーの診断をうけた。αサルコグリカン遺伝子に変異が認められた。

図15

図15:カルパイノパチーの成人例

筋力低下は軽く、進行は遅い。ときにふくらはぎに偽性肥大をみる。この患者さんは躯幹筋が特に弱いので前彎がみられる。

図16

図16:カルパイノパチーの筋病理

この写真のようなNADH-TRという特殊な染色をすると、健常人(左)ではタイプ1線維は濃く染まり、筋線維の中の網目構造がよくわかる。カルパイノパチーの人(右)では筋線維は細く、クローバの葉の様にみえる分葉線維が増加している。

ジスフェルリノパチー(dysferlinopathy