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デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)

病因、病態、病理

(1)病気は原則として男児のみ、保因者もまれに症状をみる

本症はX連鎖(性染色体)劣性遺伝をとるため、患者は男児に限られます。同じ様な遺伝形式をとる病気に血友病や色盲があります。母親が遺伝子に異常(変異)をもっていて、それが男の子に伝わることが多いのです。しかし、母親が遺伝子変異をもっているとは限りません。この病気は突然変異率が高いので、お子さんの遺伝子に突然変異があり、お母さんには変異がないことがまれではありません。お母さんの約1/3は変異がありません。まれに染色体異常(X染色体と常染色体の相互転座、Turner症候群)があると、女性も同様な症状をとります。また女性保因者(女性で遺伝子の異常を持っている人)も、まれですが血液のクレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)値が高かったり、軽い筋肉の力が弱かったりします。

(2)遺伝子の場所はX(性)染色体にあり、ジストロフィン遺伝子に変異がある

この病気を起こす遺伝子はどこにあって、その遺伝子に変異があるとどのような蛋白が欠損するか明らかになっています。遺伝子のある場所はX染色体短腕(Xp21)にあります。この遺伝子は分子量427kDの蛋白(ジストロフィンと命名されています)をコードしています。ジストロフィン遺伝子はクローニングされ、それはcDNAで14kbあって、79のエクソンからなっています。患者さんではこのジストロフィン遺伝子に変異があり、ジストロフィン蛋白が生成されないのです。患者さんの60-70%はジストロフィン遺伝子の欠失(遺伝子が欠けていて短い)、約10%は重複(遺伝子が重なって長くなっている)です。残りの20-30%は多分点変異(DNAの一個が間違っているような一塩基置換など)と考えられています。

最も多い欠失は、3塩基づつの読みにずれがある(out of frame)欠失(正常では塩基3個で一つのアミノ酸ができます。3個の組み合わせがずれるので、きちんとしたジストロフィン蛋白ができません。それは不安定で、すぐに分解されると考えられています。ですからデュシェンヌ型ではジストロフィン蛋白はまったく作られません。

(3)ジストロフィン蛋白は筋細胞膜にあり、デュシェンヌ型ではそれが欠損している

ジストロフィン蛋白は筋細胞膜直下に局在していて、ジストロフィン結合蛋白と結合しています。ジストロフィンは細長い棒状構造をしていると考えられています(図6A)。

図6A

図6A:ジストロフィンとジストロフィン結合蛋白の関係

この図は筋細胞膜(基底膜と形質膜の2重膜からなる)の一部を拡大した分子モデルの図である。
20DAPはサルコスパンとよばれている。DG:ジストログリカン SG:サルコグリカン

5'側(ジストロフィンの頭の部分)は細胞膜をしっかりと強固に保つ、アクチンという細い糸と結合する部位(ctin binding domain)で、それに続いて3重らせん構造をとる桿状部分(rod domain)が続いています。それはさらにシスティンに富む部分(cysteine-rich domain)、C端(carboxyl terminal)へと続いています。図6Bのようにジストロフィン分子はcysteine-rich domainのところでジストロフィン結合蛋白のβジストログリカン(β-dystroglycan)と結合しています。ジストロフィンはアクチンという細い線維と一緒になって膜を補強するものです(細胞膜をしっかりと裏打ち構造をするもので細胞骨格といいます)。

患者さんではこのジストロフィンは全く欠損しています。それは抗ジストロフィン抗体で免疫染色をすると、正常では筋細胞膜に局在するジストロフィンが全く染色されないことから容易に判定でき(図7)、本症の診断用に使用されています。細胞膜をしっかりと安定させているジストロフィン蛋白がないので、細胞膜は弱く、すぐにシャボン玉のようにこわれるのでしょう。

図7

図7:ジストロフィン抗体による免疫染色

正常筋(左)では筋細胞膜にジストロフィンが存在するので、膜の部分が蛍光を発し、染色されている。
デュシェンヌ型(右)ではジストロフィンがないので、まったく染色されていない。

(4)筋ジストロフィーの骨格筋では筋細胞の壊死と再生がみられる

患者さんの骨格筋を生検してみますと、筋線維の活発な壊死と活発な再生をみます(図8)。筋細胞膜がひ弱なため、細胞の外にある高濃度のカルシウム(Ca)が細胞内に逆流して、線維の変性を起こすと考えられています。高濃度のカルシウムが細胞内に入ると、筋線維は縮みあがり、特殊な酵素(たとえばカルパイン)、で消化され液状になるのです。壊れた液状のものを食べてきれいにする細胞(貪食細胞:マクロファージ)が細胞内をきれいにしてくれます。その後、再生へと進みます。

図8

図8:デュシェンヌ型筋ジストロフィーの筋病理-1

筋線維の大小不同と壊死線維(この図の中央にあって、溶けたような胞体をもっている)(矢印)をみる。
壊死線維には大型の核をもつマクロファージが侵入している。

図9

図9:デュシェンヌ型筋ジストロフィーの筋病理-2

筋ジストロフィーにみられる沢山の再生線維。中央にみえる青みを帯びた小さな線維(図の矢印)で、デュシェンヌ型では筋線維の平均15%は再生途上筋である。マクロファージで掃除され、きれいになった壊死細胞には続いて再生が起こる。病気が進むと筋線維は著明に減少し、結合織と脂肪織で置換されてしまう。こうなると力は弱く、関節が硬くなり、伸びなくなってしまう。

臨床症状

(1)幼児期には起立・歩行異常がある

本症の頻度は男児出生3、300人に1人、人口10万人に3-5人くらいの患者さんがいるといわれています。人種差はなく、あらゆる国に患者さんがいます。

従来は3-5歳頃、走れない、転びやすい、階段の昇降困難で気付かれることが多かったのです。しかし最近では、乳児期に他の疾患(たとえば風邪をひいたとか)での検査中に偶然高CK血症で見いだされることが多くなりました。乳児期から追跡すると歩行開始遅延(1歳6カ月以降に歩行開始)が30-50%いること、歩行開始時にはすでに筋力低下(立ち上がり方の異常)がみられることから、乳児期にもすでに異常があるお子さんがいるようです。

病初期は上記のように転びやすい、走れないなど歩行に関する異常が最も多くみられます。また筋肉の力が明らかに弱くなると、そん居の姿勢から立ち上がるとき、床に手をつき、臀部を高く挙げて立つようになります。健康なお子さんは、しゃがんだ位置からすっと垂直に立ち上がります。さらに筋肉の力が弱くなると、手を床に着き、つぎに膝に手を交互にあてて立つ、いわゆる登はん性起立(Gowers徴候)をみるようになります(図10)。

図10

図10:登はん性起立(Gowers徴候)

腰の筋力低下があるため、床から起立する時、まず床に手をついて、お尻を高くあげる(a)。
次にひざに手をあてて、手の力を借りて立ち上がる(b)。
ふくらはぎは太く偽性肥大を示している。
この偽性肥大はデュシェンヌ型、ベッカー型に特徴的である。

(2)10歳前後で車いす生活、関節拘縮が進行する

さらに進行すると、何かものにつかまらないと立てなくなり、10歳前後で歩行不能となり、車椅子生活となります。次第に寝返りにも人の介助が必要となり、20歳前後で、呼吸筋の力が弱くなるため、人工呼吸器の助けが必要となります。昔は人工呼吸器がなかったので、患者さんは20歳以前に亡くなっていました。でも今は40歳、50歳以上も生存するヒトが増えてきました。患者さんへのケア(呼吸リはビリデーション、心不全の予防など)が進み、患者さんの生命はもっともっと伸びるでしょう。

筋萎縮(見た目に筋肉が細くなる)は病初期にはあまり目立たちません。むしろふくらはぎが異常に太いのが特徴的で、これは仮(偽)性肥大(seudohypertrophy)とよばれています。この筋の肥大は肩や、頬筋、舌筋にもみられます。ふくらはぎの肥大はデュシェンヌ型や次に述べるベッカー型では、ほとんどの患者さんにみられます。他の筋ジストロフィーでは筋肥大をみることはまれなので、筋肥大をみたら医師はまずデュシェンヌ型やベッカー型を考えます。

病気が進行すると、筋萎縮は躯幹近位筋(大腿、上腕、躯幹筋)に著明にみられるようになります。歩行時には関節拘縮(関節の伸展が悪くなることです)はアキレス腱の短縮による尖足のみですが、歩行不能となった時点から、股関節、膝関節などに広がっていきます。脊柱変形、手指、顎関節など全身の関節の拘縮をみるようになるのです。腱反射はアキレス腱反射を除いて減弱ないし消失します(図11)。

図11

図11:車イス生活になったデュシェンヌ型筋ジストロフィーのT君と筆者

足の関節が拘縮している。
T君は人工呼吸器をつけながら、亜細亜大学法学部を卒業し、現在法律関係の仕事をしているファイトあふれる青年です(この写真はT君の中学生時代のものです。掲載にはT君の許可を得ています)。

診断

臨床症状(走れない、階段の昇降困難、ふくらはぎの肥大など)、血清クレアチンキナーセ(CK,、CPKと言われたこともあります)値が正常の10倍以上、男児であればほデュシェンヌ型が強く疑われます。診断を確定するためにMLPA(multiple ligation-dependent probe amplification)法という遺伝子診断法があります。血液約5CC 採血し検査施設に依頼します。約80%はこの方法で異常がみつかり、デュシェンヌ型と確定診断できます。保険にも適応されています。この方法で変異が見つからないときはジストロフィン遺伝子をシーケンスするか、筋生検をします。

治療

(1)ステロイド治療

現在のところ病気の進行をとめたり、筋力が回復するような根本的治療法はみつかっていません。でも、病気の進行を遅らせるさまざまな試みがなされています。

その一つとしてステロイド(副腎皮質ホルモン)投与が広く行われています。アメリカの神経学会、小児神経学会では多くの患者で治験をしたところ、最初はプレドゾロン0.75mg/Kg/日の連日投与から開始することがもっとも有効であったとして、推薦しています。副作用が出てきたら、0.3mg/Kg/日に減量します。

日本でもアメリカの方法で治療を行っている人もいます。しかし、副作用を懸念して上の量の隔日投与がより多く使用されています。ステロイド治療をすると、病気の進行が抑えられ、歩行可能期間が2年延長するとの結果がでています。またステロイド治療は側彎を阻止する働きがあり、心肺機能の低下防止にも効果あるといわれています。

ステロイド治療では副作用がしばしばみられます。成人にみられるような高血圧、糖尿、白内障などはまずありません。一番多い副作用は肥満です。あまり肥満が強すぎたら薬を減量します。まれですが怒りっぽくなってパニックになるなどの情緒障害があります。その場合は、薬を一時中止して、様子をみて少量から再開します。

(2)そのほかの薬物治療

現在、筋力低下の進行を阻止したり、遅延させたりする薬はみいだされていません。ただ、いくつかの薬剤(プロスタグランディン阻害剤、シルデナフィルクエン酸塩など)が治験に入っています。くわしくは筋ジストロフィー臨床試験ネットワークのホームページをご覧ください。
http://www.mdctn.jp/(外部のサイトを開きます)

(3)呼吸機能低下、関節拘縮の予防には早期からのリハビリが大切

デュシェンヌ型では筋力低下、関節拘縮が進行するので、それを少しでも防ぐためのリハビリテーションが行われ、効果をあげています。また呼吸不全をみるようになった場合はマスクによる人工呼吸器(noninvasive intermittent positive pressure ventilation:NIPPV)の使用が行われ、患者さんの延命効果に大きく寄与しています。心不全徴候がみられるようになった患者さんには、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、ベーターブロッカー、利尿剤を組み合わせた治療が行われていて、とてもよい結果をえています。いろいろな薬物治療、呼吸管理などで、患者さんの生命予後は飛躍的によくなっています。

(4)根本治療への挑戦

遺伝子治療はmdxマウス(ジストロフィンが欠損している筋ジストロフィーマウス)を使用して行われています。アデノウィルスをベクター(DNAの細胞内への運びやさん)にして、ジストロフィン遺伝子の一部あるいは全長が挿入され、筋内投与が行われましたが、効果の持続が短く実用的ではなさそうです。アデノウィルスベクターに変わるベクターとしてアデノ随伴ウィルスベクター(adeno-associated virus:AAV vector)が開発されて、広く実験に使用されています。ただこのベクターは大きな遺伝子は挿入できません。ジストロフィン遺伝子は大きい(cDNAで14kb)ので、大切な遺伝子情報の部分を集めたミクロジストロフィン(4.6kb)が、国立精神・神経センター神経研究所所長 武田伸一先生が開発されています。遺伝子治療などくわしくは武田伸一先生が書かれた論文をご覧ください。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する分子治療のこころみ

iPS細胞を使っての筋ジストロフィー治療研究も進んでいます。
詳しくは精神・神経科学振興財団ニュースレター 第16号iPS細胞を使っての筋ジストロフィー治療戦略(櫻井 英俊先生)をご覧ください。
対談形式なので理解しやすいと思います。
http://www.jfnm.or.jp/n-letter.html(外部のサイトを開きます)