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病理学的な鑑別点

筋疾患の診断には血液生化学、筋電図、筋CT、MRIなどいろいろな検査をして診断を確定します。最近では遺伝子の検査が広く応用されています。いろいろ検査しても診断がきちんとつけられないことが多いのです。そのときは筋肉の一部を採って、顕微鏡で検査します。それを筋生検といいます。筋生検は大人では局所麻酔で行います。ちょっと痛いのですが、安全で診断にとても役立つ検査です。

筋生検による病理学的特徴から神経原性、筋原性の鑑別はできます。筋生検では筋細胞にどのような蛋白が欠損しているかなど、診断に決定的な情報が得られることが多くなりました。たとえばデュシェンヌ型筋ジストロフィーでのジストロフィン蛋白の欠損です。それは免疫組織化学的染色という方法で簡単に証明できます。

筋細胞の大きさ(直径)の変化

筋肉の細胞は細長い細胞で、ゴムひものように伸び縮みします。細いゴムひもが束になっているのが筋組織です。正常筋では個々の筋細胞の直径には大きなばらつきはありません(図2左)。筋細胞径は新生児で10ミクロン、成人では60-80ミクロン(ミクロンは1/1,000m)あります。筋原性疾患では一般に筋線維の大小不同(大径の線維と小径の線維が不規則に混合している)があります(図2右)。

図2

図2:正常(左)と筋原性疾患の筋(右)

正常筋(C)ではほとんど大小不同がない。右の筋原性筋疾患(筋ジストロフィー筋)(D)では筋線維の大小不同がある。筋線維と筋線維の間が広く空いているのは結合組織が増加した結果である。

一方神経原性では脱神経(神経支配がなくなった)をうけた小径の線維が群をなし、いわゆる群萎縮(group atrophy)の像をとります(図3)。

図3

図3:神経原性疾患の筋

細く萎縮した筋線維が群をなしたり(群萎縮)、角張った筋線維(小角化線維)が多く存在する。

この群萎縮は運動ニューロン疾患(ウェルドニッヒ・ホフマン病)では大群萎縮の傾向が強く、末梢神経疾患では小群萎縮の傾向が強いといわれています。例外はあって、筋萎縮性側索硬化症でも病初期は小角化線維(small angular fiber)が集合した小群萎縮の像が顕著ですし、末梢神経疾患でも進行例は大群萎縮をみます。

筋線維タイプの分布異常

正常筋ではタイプ1(赤筋)線維と、タイプ2(白筋)線維はモザイクをなして存在し、タイプ1線維:2線維の比は1:2となっています(図4)。

図4

図4:正常骨格筋の組織化学染色

正常人の上腕二頭筋。タイプ1線維(ほとんど染まっていない)(1)と、タイプ2線維(黒く染まっている)(2)がモザイクをなして存在する。その比率は約1:2である。この組織はATPase染色がしてある。

ミオパチーでも多くはタイプ1、2線維がモザイクをなしていて、筋線維タイプの分布の基本形は保たれています。一方神経原性疾患では脱神経後の神経再支配があるため、筋線維タイプの群化(fiber type grouping)がみられます(図5)。

図5

図5:神経原性疾患筋の組織化学染色

図4にみられたタイプ1、2線維のモザイク様の分布はみられず、タイプ1線維(薄く染まっている)が群をなしている(図の左半分)。中間色の線維がタイプ2C線維である。ATPase染色。

これは神経末端での分枝(sprouting)がおこり、脱神経をうけた筋が神経再支配をうけ、筋線維タイプが変換したためです。たとえば一つの筋束内のタイプ2線維が脱神経をうけるとします。脱神経を受けた筋線維が近隣のタイプ1線維を支配する神経により再支配をうけると、タイプ2→2C→1線維への変換が起こります。そのために、その筋束はすべてタイプ1線維のみとなるのです。勿論タイプ1→2C→2線維へと変換する筋束もあります。上記のように変換の際には一度未分化なタイプ2C線維へと脱分化するため、活発な神経再支配がある筋ではタイプ2C線維が散在します。

ミオパチーでもネマリンミオパチーに代表される先天性ミオパチーではタイプ1線維の増加(タイプ1線維優位:type 1 fiber predominance)がみられます。極端な場合は全ての筋線維がタイプ1線維でタイプ2線維が欠損することがあります。神経原性の筋線維タイプ群化とは病因的に異なるのですが、一見したところ鑑別困難なこともあります。

間質の変化

間質結合織の増加や、脂肪織の増加は一般に神経原性疾患より筋原性疾患の方に強い傾向にあります。しかし進行例では両者とも、筋線維の数は減少して間質の結合組織や脂肪組織の増加が著明となります。

筋組織内末梢神経の変化は鑑別診断上重要です。筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症(ウェルドニッヒ・ホフマン病)では早期から筋内有髄線維の脱落をみます。一方筋ジストロフィーなど筋原性疾患では末期になっても筋内末梢神経は正常に保たれています。