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第1部 コンシュマーの体に合わせた住宅の建築

宮城県柴田郡・佐藤隆雄さん宅

筋ジストロフィーのコンシュマーが設計段階から設計事務所・建築会社と協力して建てたバリアフリー住宅を紹介する。

写真は、宮城県柴田郡柴田町にある、日本筋ジストロフィー協会東北地方本部長の佐藤隆雄さんの自宅である。福祉機器の開発・販売を行う会社を経営する佐藤さんが、平成9年に建築した。

妻のかつ子さんが肢帯型筋ジストロフィーのコンシュマーであるため、からだに合わせて屋内、屋外の至るところに工夫をしている。

佐藤さんは現在52歳、妻のかつ子さんと中学3年生の太治さんとの3人暮らしである。

道路からのスロープもゆるやかで、車椅子も自動車から玄関まで入ることができる。

住宅の構造

木造、平屋建て、建坪は約38.2坪である。傾斜のある屋根とスロープ移動の補助を兼ねた木製の手すりで、ログハウス風の外観となっている。

屋内外への移動

かつ子さんの主な移動手段は自操式の車椅子である。自由に移動するため、室内にはほとんど段差はなくスロープを多用している。

  1. 玄関まで

    道路から玄関までは約6.6度の傾斜を持つアプローチとした。スロープは約280cmと幅広く取り、幅63cmの車椅子の移動が容易になっている。

  2. 玄関

    玄関ポーチにはまったく段差がなく、上がりかまちの代わりとして横に台を置いたので、家族の靴の履き替えも容易である。引き戸にしており、車椅子での出入りは自由だ。

  3. デッキへ

    リビングからデッキを経て、もう一つのスロープを通って屋外へでることもできる。リビングとデッキの間には滑り止め付きのグレーチングを設けた。

室内の移動

  1. 玄関、各室の入り口はすべて引き戸とした。また、引き戸の把手や電源スイッチの位置は、車椅子の高さから操作できるように低めに、手すりは長め(約50cm)である。トイレの入り口やクローゼット、納戸は開け閉めのより容易なアコーディオンカーテンとした。

  2. 手すり

    佐藤邸では手すりの利用がほとんど必要ないため、設置していない。しかしバリアフリー住宅を専門に手掛ける建築設計者と相談し、将来設置する約10カ所の位置を決定した。

  3. リフトの利用

    寝室のベッド脇からトイレ、洗面所を経由し浴室まで天井走行式のリフトを設置した。リモコンを使って、自分で乗り降りができる。

水回り等

  1. 洗面所

    車椅子にのったまま利用できる机型の洗面台を設置した。

  2. 浴室

    浴室入り口もごく広く取り、浴槽と床面が同じ高さになっている。

  3. トイレ

    寝室脇と廊下の2カ所に設置し、1カ所は座面を車椅子と同じ高さにしたうえ、ごく広い座面とした。

  4. 台所

    車椅子に合わせた高さのシンクを取り付けた。洗面台と同様に机型となっている。また、蛇口も使いやすいように改良されている。

図解説明

見取り図1

見取り図2

玄関は室内まで段差がなく、車椅子で自由に出入りできる。

寝室のベットからトイレ、洗面台、浴室間には天井走行型リフトを設置した。

引き戸の把手や電源スイッチの位置は、車椅子に合わせた。

車椅子のまま洗顔できる洗面台。

玄関を入ったところ。段差はない。
横に置いた台は、靴を履き替えるためのもの。

台所のシンクの高さもかつ子さんに合わせて設置した。

リビングから和室への移動が楽にできるよう、和室の高さを車椅子に合わせている。

屋内とデッキの段差もなくした。滑り止め付きのグレーチングを使用。

設計・管理一級建築士事務所(株)空間環境研究所


バリアフリー住宅を体験・研修はぎのさとユニティの取り組み

住宅改装のポイントを確認するために

佐藤さんの住宅を作るヒントにもなったものが、社会福祉法人共生福祉会と株式会社ジェー・シー・アイ、建築士事務所の空間環境研究所が協力してつくった「はぎのさとユニティ・バリアフリー体験住宅」である。

はぎのさとユニティの「バリアフリー体験住宅」の外観。一般の住宅と同じ資材を使用した。

2階に移動するための階段昇降リフトとホームエレベーターを利用することもできる。

共生福祉会(はぎのさと福祉工場)では平成6年以来、新規に起こした福祉環境事業部を「はぎのさとユニティ」として福祉用具や介護機器の販売業務に取り組んできた。その頃から在宅療養が注目され、被介護者が住みやすく、介護者の身体的負担が軽減されるような住宅の新築・改造が重要になった。

しかし、実際にどのような新築・改造をしたらよいのか、またどのような機器が介護を軽減させるかなどを体験する場所はなく、障害や程度の個人差に適合させる情報も不十分であった。

この状況を踏まえ、はぎのさとユニティを中心として、障害を持ったり高齢を迎えて安全かつ安心の住まい作りに取り組もうとしている人々と、このような住宅の建設を考える業者等が、「バリアフリーを実際に学習体験できる施設が必要ではないか」と考え、新築や改造のポイントを実際に確認でき、介護実習や研修にも利用できる機能が備わったモデル住宅を計画した。

行政へ働きかけたが実現せず、他財団からの寄付を得て、単に見学するだけでなく、宿泊もできる「バリアフリー体験住宅」を平成7年9月23日に開館した。

設計コンセプト

一般の住宅での生活行動が可能な住宅部分では宿泊体験をしたり実際に生活できる。また、住宅部分に日常生活を送れるよう介護機器及び用品を展示し、見学者が実際に展示品で使い心地を試すことができる。写真のように外観や内観は一般の住宅と同様になっており、建築に使用する資材類も、特注品は採用せず、一般住宅で使用されているもので構成された。

一般の資材でバリアフリーに近づける工法と、これらの資材でこのようなバリアーが出ることを実際に見学者が確認し、どのレベルのバリアフリーが必要かを検討することができる。

開館以来、一般の見学だけでなく、宿泊による介護及び機器の体験や、保健婦・ヘルパー・各種学校・ボランティア・行政の研修、リハビリの一環としてのお花見・設計、建築関係者の勉強会などにも利用されている。

実際に見学した利用者のアンケートでは、多くの人が情報不足から生ずる身体的な不安に対して、多少なりとも安心感を得たと答えている。最も多いのは「介護機器の価格が高い」という回答である。車いす利用の方では、一般のモデルハウスは入場すら不可能なものが多く、見学できるというだけでも大変感激である、という声もあった。

今後の展開

はぎのさとユニティでは、高齢者や障害者が住み慣れた住宅や地域で自立して生活を続けるために、総合的な生活環境をつくる専門職の役割を担う努力をしていきたい、と考えている。さらに、福祉と建築を連結する土台としてのバリアフリー体験住宅の活用と、在宅福祉をサポートする各職種への情報発信の場として発展させることも計画している。

バリアフリー体験住宅の活用を見て、平成9年、行政も同じ設計者によるバリアフリーモデル住宅を建設・公開しており、関係者は「はじめに動きをつくることが必要だ」という。

体験住宅では、外部の情報の取り込みを常に心がけており、介護機器も新たなものが日々取り入れられている。このためか、再度訪問する人々も多い。

【問い合わせ先】はぎのさとユニティ

場所:
〒982-0804 仙台市太白区鈎取御堂平38
TEL:
022-244-1254
FAX:
022-244-8134