筋疾患のいろいろ その7


U.筋原性疾患(myopathies)


13.ミトコンドリア病(mitochondrial diseases)
 ミトコンドリアはエネルギーを産生する細胞内小器官です。ミトコンドリアはよく車のエンジンに例えられます。もしミトコンドリアに異常をきたすと、大量のエネルギーを必要とする骨格筋、中枢神経系にまず異常をきたすのです。ミトコンドリア病はしばしばミトコンドリア脳筋症と呼ばれるのはそのためです。心筋も当然侵されるし、難聴、糖尿病、腎障害などの合併症も多くみられます。ミトコンドリア病の60ー70%は以下に述べるいわゆる3大病型に属します。3大病型以外ではLeigh脳症、チトクロームc酸化酵素欠損が最も多く報告されています。3大病型とLeigh脳症の臨床的まとめを表6に示しました。
病 型 CPEO
(慢性進行性外眼筋麻痺)
MELAS
(メラス)
MERRF
(マーフ)
Leigh脳症
(リー脳症)
家族歴(母系遺伝) +(20%のみ)
発症年齢 小児〜70歳 2〜15歳 小児〜40歳 乳児






低身長
知能低下
筋力低下
感音性難聴
周期性頭痛・嘔吐
皮質盲
片麻痺・半盲
痙攣
ミオクローヌス
小脳失調
外眼筋麻痺
網膜色素変性
心伝導障害

−〜±








[+]
[+]
[+]




[+]
[+]
[+]
[+]
−*










[+]
[+]
[+]










+〜−






高乳酸血症
髄液タンパク質上昇
CT異常:脳萎縮
局所性低吸収域,淡蒼球石灰化




−*







脳幹、脳基底核の変化


RRF
SSV

−*



酸素欠損(複合体) W>T T W W(10%のみ)
mtDNA異常 欠失(種々の大きさ) 点変異(3243,3271) 点変異(.8344) 点変異(8933)**
CPEO:chronic progressive external ophthalmoplegia, MELAS:mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis,and stroke-like episodes, MERRF:myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers, RRF:ragged-red fibers, SSV:strongly SDH-reactive blood vessels, CT:computed tomography, mtDNA:mitochondrial DNA
*:まれに+,**:患者の約20%のみ,[ ]:重要な鑑別点
表6:ミトコンドリア病の3大病型とLeigh脳症の特徴

(1)病因、病態、病理
 表6に示したように3大病型にはそれぞれ疾患特異的なミトコンドリアDNA(mtDNA)変異をみます。またLeigh脳症の約20ー30%もmtDNAの変異によることが知られています。チトクロームc酸化酵素欠損の一部は核遺伝子の変異によることが明らかにされています。それはチトクロームc酸化酵素の合成に関係する遺伝子、SURF1遺伝子の変異によるものでした。この病気は核遺伝子の変異ですから、常染色体劣性遺伝をとります。
 mtDNAは環状のDNAで、16、569塩基対からなっていて、イントロンはなく全てエクソンからなっています(図30)。われわれの体の細胞のミトコンドリアは全て母親由来であるのでmtDNA変異の主な病気(慢性進行性外眼筋麻痺症候群を除く)は母系遺伝を示します。


図30:ミトコンドリアDNA(mtDNA)と主な疾患の変異 斜線部はtRNA コード領域,12S,16SはrRNA コード領域.
ND:複合体T

CO:シトクロムcオキシダーゼ(複合体W)

ATP:ATP合成酵素

cyt b:シトクロムbのコード領域

CPEOの矢印はこの範囲内でいろいろな長さの欠失を見る。
外側:重鎖, 内側:軽鎖
図30:ミトコンドリアDNA(mtDNA)と主な疾患の変異
 MtDNA変異をもつ疾患では、全てのミトコンドリアが異常ではく、正常なものも共存します(それはheteroplasmyと呼ばれています)。正常:変異DNAの比率は一定ではなく、個体間、同じ個体でも組織間で異なります。変異したミトコンドリアがより多く蓄積した組織ほど、より強い症状を示すと推定されています。たとえば膵臓に限って、変異mtDNAが多くあれば膵臓が侵され、糖尿病が前景に立ちます。このようにある特定の組織が侵されることを組織特異性(tissue specificity)といいます。
 ミトコンドリア病の大半は骨格筋が侵されるので、骨格筋細胞のミトコンドリアに形態学的な異常をみます。筋線維内のミトコンドリアは巨大化し、その数も増加します。増加したミトコンドリアはGomoriトリクローム変法という染色で赤染し、すこしボロボロした感じを与えるので。赤色ぼろ線維(ragged-red fiber: RRF)とよばれています(図31)。
図31:赤色ぼろ線維 赤色ぼろ線維。

ゴモリトリクローム変法染色という簡単な染色で、正常筋(左:N)では赤い顆粒状のミトコンドリアはほとんど見えない。ミトコンドリア病(右:Mit Dis)では筋線維の大小不同と赤く染まる筋線維(赤いのは全て異常に増加したミトコンドリア)がみられる。多くの場合、この赤色ぼろ線維があるとミトコンドリア病と診断できる。
図31:赤色ぼろ線維

電子顕微鏡で見るとミトコンドリアは巨大化し、複雑に増殖したクリステ(cristae)をもち、しばしば類格子様封入体(paracrystalline inclusion)をもっています。
(2)症状
慢性進行性外眼筋麻痺症候群(chronic progressive external ophthalmoplegia: CPEO)
 本疾患の約70ー80%の患者さんにミトコンドリアDNA(mtDNA)の欠失をみます。欠失とは遺伝子の一部が欠けていて、遺伝子が短くなっていることです。欠失の部位は個人によって異なり、一定ではありません。ごくまれに優性遺伝をみますが、大半(95%以上)は突然変異によるもので遺伝性はありません。
 発症は小児期から成人までと幅広く、10ー20歳に気付かれることが最も多いのです。まず眼瞼下垂(上まぶたがさがること)で気付かれます。病初期は片方のみのこともありますが、早晩両側性の眼瞼下垂となります。眼球運動制限もあり、進行すると全方向への運動が制限されます。眼症状のみのものもいますが、大半は易疲労性とか四肢の筋力低下も伴います。眼症状、網膜色素変性、心伝導障害を伴うものはKearns-Sayre syndrome (KSS)とよばれています。Kerns とSayreはこの病気をみつけた人の名前です。この病気では難聴、低身長、髄液の蛋白増加をよく認めます。また幼少時では知的退行をしばしば伴います。
血清乳酸値の上昇、筋生検で赤色ぼろ線維(ragged-red fiber)の存在の確認、チトクロームc酸化酵素染色で酵素活性が欠損した線維があること(部分欠損)で、診断が確定します。骨格筋内のmtDNAには変異がみられますが、血液から分離したものにはみられません。すなわち、本症は血液では遺伝子診断は出来ず、筋生検が必要です。
 治療法には特別なものはありません。コエンザイムQ製剤(ノイキノン)の多めの投与で効果がある人がいます。目が下がってものが見ずらい方には、二重瞼を作るアイプッチというのが化粧品屋さんにあります。いちど試されてはいかがですか。

☆.メラス(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes:MELASは神経学用語集では、「ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様症候群」と訳されていますが、一般にはメラスと呼ばれています)
 脳卒中様症状を主症状とする疾患で、母系遺伝(母から子どもへの遺伝)をとります。mtDNAの転移(t)RNALeu(UUR)のコード領域にある3、243番目のA→G変異(3243変異)をとるものが80%、3271番目のT→C変異が10%です。
 本症は母系遺伝をとるので、母親、同胞の多くは変異をもっています。しかし変異mtDNAをもっていても、無症状なものから、非特異的症状(筋力低下、易疲労性、低身長、糖尿病など)のみ、典型的メラス症状を示すものまでと幅があります。病理学的に血管(小動脈)の異常がある(血管平滑筋に異常ミトコンドリアが増加している)ことから、血管系の異常が本症の発症に大きく関与していると考えられています。
 成人発症もありますが、多くは小児期に最初の脳卒中に似た症状が出現します。患者さんの80%は15歳までに第1回目のエピソードを経験します。脳卒中様症状が出現する前から、低身長、易疲労、軽度の筋力低下をみることが多いとされています。脳卒中様症状は嘔吐を伴う発作性の頭痛、痙攣、意識障害で、回復後に片麻痺、視力障害(多くは一過性)を残します。脳卒中様症状は数時間から数日続き、その間は高乳酸血症による代謝性アシドーシスをみます。成人にみられる脳卒中と異なり、麻痺のような症状は一過性で通常は速やかに快復します。
 発作症状を繰り返すにつれ、知的退行、てんかん、半盲(時に両側性)、筋力低下が進行し、るいそう、感染、腎不全などでをみることもあります。
 血清とくに髄液の乳酸値が正常の2倍以上と高くなります。脳CT/MRIでは多巣性の脳梗塞類似の所見を後頭部優位に認めます(図32)。
図32:メラスの脳MRI(T1強調画像) 後頭部(写真の左下の方で、矢尻印で囲んである部位)は薄くみえる(シグナル強度が低い)。この部は血流が少なく脳梗塞の後の所見に似る。メラスではこのように、後頭葉に病変が強い傾向がある。

病気が進行すると、本症のように脳室の拡大、脳の萎縮が目立つようになる。
図32:メラスの脳MRI(T1強調画像)
 ただし、罹患部位は必ずしも大・中血管の支配領域とは一致しないところが、成人の脳梗塞と異なるところです。筋生検では赤色ぼろ線維とともに、約80%に血管系の異常(コハク酸脱水素酵素染色で濃染する血管:strongly succinate dehydorgenase (SDH)-reactive blood vessels: SSV)(図33)をみます。ミトコンドリアDNA変異は血液から分離したDNAで検査ができます。
図33:筋組織内の異常血管(SSV) ミトコンドリアをよく染めるコハク酸脱水素酵素(succinate dehydrogenase: SDH)

染色すると、正常筋(左:N)では血管はほとんど染まらない。

メラス(右:MELAS)では血管壁が強く染まり、異常なミトコンドリアが血管壁に蓄積していることが分かる。
図33:筋組織内の異常血管(SSV)
 治療には根本的なものはありません。発作時には輸液によるアシドーシスの補正、ステロイド投与、酸素吸入を行います。カルジオクロームの静注が有効であるとの報告があります。またジクロロ酢酸という化学物質が乳酸アシドーシスを改善し本症に有効とされています。

マーフ(myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers:MERRFは神経学用語集では赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群と訳されているがマーフと呼ぶのが一般的である。あるいは福原病ともよばれる)
 マーフはミオクローヌス、全身性のてんかん発作、小脳性失調を主症状とし母系遺伝をとります。約90%の患者にmtDNAのtRNAlysコード領域の8、344番目のA→G変異がみられ、これは血液から分離したDNAでも証明できます。MELASでみられたように、母や同胞は無症状から典型例までと幅があります。
 発症は小児期から成人までと幅広いです。多くはミオクローヌス(筋肉がピクピクと動く現象です)、小脳失調で気付かれます。けいれん発作は全身性の強直、間代性です。多くは発症前から易疲労性が見られます。経過とともに痙攣、筋力低下、知的退行が進行していきます。約40%の患者に心筋症を合併します。
 検査では血液、特に髄液の乳酸値の上昇がみられます。筋生検では赤色ぼろ線維、チトクロームc酸化酵素部分欠損、SSVなどが80%以上の患者でみられます。
 治療は対症的で、メラスと同じです。バルプロ酸はミトコンドリアのカルニチン代謝に影響するので使用しない方がよいと考えられています。

リー(Leigh)脳症(Leigh encephalomyelopathy)
 本症は脳基底核、脳幹部に左右対称性の壊死性病変をみる神経病理学的診断名(病理解剖をして、はじめて原因が分かる診断名)でした。しかし、画像診断の進歩により、病変部位が確認できるようになって、臨床診断名となっています。
典型例は乳児期に発症します。発育発達の停止、筋力・筋緊張低下、呼吸障害、知的退行を主症状とします。進行例では筋緊張が亢進することもあります。呼吸不全、るいそうで発症後数年で死の転帰をとることもありますが、中には治療により改善する人もいます。血清、髄液の乳酸値は上昇します。脳CT/MRIで脳基底核や脳幹(脳の中心部にあります)の異常が診断的です(図34)。
脳の基底核(線条体)に
左右対称性の壊死病変(→)
がみえる。
図34:リー脳症の脳CT像
図34:リー脳症の脳CT像
 本症の原因は一つではありません。ミトコンドリアDNAのATPaseコード領域に変異を持つ患者さん(8,993 番目のT→GあるいはT→C変異など)が約20-30%みられ、それは母系遺伝をとります。ミトコンドリアDNAに変異がない例が多く、それは常染色体劣性遺伝をとると考えられています。リー脳症の約20%の患者さんではミトコンドリアにあるチトクロームc酸化酵素欠損が欠損しています。この場合はミトコンドリアDNAでなく、核DNAがコードするSURF1という遺伝子に変異があります。ミトコンドリア病で核の遺伝子に変異がみつかった珍しい例です。原因が分かったものにピルビン酸脱水素酵素複合体(pyruvate dehydrogenase complex: PDHC)欠損がありますが、これはリー脳症の数%を占めるだけです。ですから、リー脳症の半数以上は原因となる異常が見いだされていないことになります。
 治療法としては特別なものはありません。ただ、中にはビタミンB1が著効する例がある(B1依存性PDHC欠損など)ので、ビタミンの投与を行います。またアシドーシス(血液の酸性度が強くなる)にはジクロロ酢酸が効果あります。

チトクロームc酸化酵素欠損(cytochrome c oxidase: COX deficiency) 
 ミトコンドリア病には酵素欠損がみいだされ、生化学的な分類での診断名があります。その中で最も多いのがチトクロームc酸化酵素(COX)(複合体IV)欠損です。この酵素欠損でリー脳症にもなります。リー脳症以外の疾患として次の2つの病気が代表的です。
乳児重症型(fatal infantile form)
 乳児期から筋力・筋緊張低下、呼吸不全、意識障害、強いアシドーシスを伴い1歳以下で死亡する重症型です。約半数に糖尿、蛋白尿、汎アミノ酸尿(DeToni-Fanconi-Debre症候群)をともないます。
乳児良性型(benign infantile form)
 きわめてまれでまだ日本では、10例以下の報告しかありません。症状は乳児期に筋力・筋緊張低下、呼吸不全などで、人工呼吸器が必要なこともあります。1歳過ぎから症状は改善し、多くは全く正常となります。一部は完全には回復しません。中枢神経障害はありません。
上記いずれの疾患も常染色体劣性遺伝と考えられています。筋生検では赤色ぼろ線維をみとめ、COX活性は組織化学的にも生化学的にも低下ないし欠損しています。ただ乳児良性型では酵素の活性は次第に上昇していきます。

メンギー(mitochondrial neurogastrointestinal encephalomyopathy: MNGIE) 
 常染色体劣性伝形式をとるまれな疾患です。通常10代から20代に疾患に気づかれます。最も目立つ症状は、著明な全身のやせと消化器症状(消化管運動不全や下痢)で、他に、眼瞼下垂、末梢神経障害による手足のしびれなどが見られます。筋生検では赤色ぼろ線維、チトクロームc酸化酵素部分欠損など、何らかのミトコンドリア異常の所見が見られます。骨格筋のミトコンドリアDNAを調べると、ミトコンドリアDNAの欠乏(量の減少)や多重欠失と呼ばれる変異が検出できます。
この疾患は、チミジン・ホスフォリラーゼという酵素の欠損で起こります。チミジン・ホスフォリラーゼは、DNAの原料であるチミジンを分解する酵素ですが、この酵素がないために、患者さんの血液中では、チミジンの濃度が通常の60倍程度にまで増加しています。この高濃度のチミジンが、正常なミトコンドリアDNAの合成を妨げているのだと考えられています。
血液中のチミジン濃度とチミジン・ホスフォリラーゼ活性を測定することで、診断を付けることが出来ます。チミジン・ホスフォリラーゼ遺伝子の変異を見いだせば、さらに確実な診断になります。血液10mlで、これら全ての検査を行うことが出来ます。




14.ミオグロビン尿症(myoglobinuria)
 ミオグロビンはヘモグロビンに似たヘム蛋白で、筋細胞内での酸素運搬の役割を果たします。筋細胞の融解(壊死)で、この蛋白が血中に遊離し、尿から大量に排出される状態をミオグロビン尿症といいます。腎障害を合併することが問題となります。
 原因はいろいろあります。糖原病のところで述べた垂井病、McArdle病などのように酵素欠損が明らかなものもあります。また熱射病のような特異環境、薬物中毒(蛇毒、悪性高熱など)があげられます。しかし、ミオグロビン尿症の多くはいろいろ検査しても原因がわからず、特発性ミオグロビン尿症として分類されています。

カルニチンパルミチールトランスフェラーゼ欠損(carnitine palmityl transferase (CPT) deficiency)
 長鎖脂肪酸はカルニチンと結合して、アシルカルニチンとなり、ミトコンドリア内膜を通過します。アシルカルニチンの通過を助ける酵素がCPTです。CPT−I, IIがあり、酵素欠損はIの方が圧倒的に多いとされています。
 長時間の運動、飢餓(糖分の補給不足)が誘因となって、筋力低下、筋痛をみ、その後ミオグロビン尿をみます。筋痙攣やsecond wind(McArdle病には特徴的)はみられません。
 血清クレアチンキナーゼ(CK)値は発作時以外は正常です。阻血下運動負荷試験では乳酸値、アンモニアは正常と同じように上昇します。低脂肪、後糖質の頻回の食事、長時間の運動制限を指導します。

ホスホグリセロムターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、乳酸脱水素酵素Mサブユニット欠損(phosphoglyceromutase (PGM), phosphoglycerate kinase (PGK), lactic dehydrogenase M(LDH-M) subunit deficiencies)
 PGM欠損は小児期からの運動時の有痛性の筋痙攣を主症状とします。まだ数例の報告があるのみで、きわめてまれです。
 PGK欠損はX連鎖劣性遺伝をとり、乳児期から溶血性貧血、中枢神経系異常をみます。ただし、血液異常に乏しく、筋痙攣と繰り返すミオグロビン尿のみをみる筋型もあります。阻血下運動負荷試験では乳酸の上昇はみられません。
 LDH−M欠損はわが国で最初に報告された疾患です。運動時の筋痛、筋痙攣を主症状とします。阻血下運動負荷試験では乳酸値の上昇は少ないがピルビン酸値は上昇するといわれています。

悪性高熱(malignant hyperthermia)
 全身麻酔下で筋が硬直し、高熱を持続、時に心停止を来す疾患です。麻酔薬のハロセン、筋弛緩剤のサクシンが主な原因物質と考えられています。これらの物質に筋小胞体が過敏となり、小胞体から大量のカルシウムが筋細胞内に放出され、筋硬直が持続、筋細胞は壊死に陥ります。
 優性遺伝をとるものがあり、それはリアノジン受容体(ryanodine receptor)遺伝子に変異があることが分かっています。セントラルコア病も同じようにリアノジン受容体遺伝子内に変異があり、高率に悪性高熱を起こすので、両者は密接な関係がありそうです。筋ジストロフィーやその他の筋疾患も、一般人よりは麻酔時に悪性高熱を来しやすいと報告されています。筋疾患のある患者さんでは全身麻酔に注意が必要です。麻酔中に悪性高熱となってもダトロレンNa(ダントリウム)の静注が著効し、死亡率は激減しました。

悪性症候群(malignant syndrome)
 向精神薬を服用の患者さんに、筋硬直、発熱など悪性高熱様の症状をみることがあります。原因は悪性高熱と異なり、中枢神経系の異常によると考えられています。




15.遠位型ミオパチー(distal myopathies)
 筋ジストロフィーは躯幹や四肢の近位筋が好んで侵されます。しかし筋ジストロフィーの中には四肢の遠位が好んで侵される病型が知られています。それは遠位型ミオパチーあるいは遠位型筋ジストロフィーとよばれています。

三好型遠位型筋ジストロフィー(autosomal recessive distal muscular dystrophy; Miyoshi myopathy)
 本型は徳島大学の三好和夫名誉教授によって最初に報告されました。常染色体劣性遺伝をとり遺伝子座は第2染色体単腕(2p13)にあり、その遺伝子産物はジスフェルリン(dysferlin)と名付けられました。この蛋白は細胞膜に局在することは免疫組織学的染色で証明されています。診断のスクリーニングに役立つ。このジスフェルリン遺伝子変異と蛋白の欠損は肢帯型筋ジストロフィー(LGMD2A)でも見いだされています。肢帯型と診断された症例の中で、このジスフェルリンがどれくらいの頻度で欠損しているのかはまだ不明です。最近SJLマウスという突然変異種はジスフェルリンが欠損していて、本症のモデル動物として注目を集めています。
臨床症状は20−30台に下腿(とくに下腿後部のヒラメ筋や腓腹筋)から侵されるので、歩行の異常で気付かれます(図35)。進行は速いものでは発症後10年位で車椅子生活となります。おなじ家族の中でも症状に差があるといわれています。この病気では心臓や呼吸器は侵されにくいので生命的予後はよいとされています。
図35-1図35-2 頭部、上肢にはほとんど異常がみられない。
本症では、ふくらはぎの筋肉が特に強く侵されるため、下腿は細くなっている。
図35:三好型遠位型筋ジストロフィー
筋ジストロフィーですので血清クレアチンキナーゼ(CK)値は著明に上昇します。筋CT/MRIでは下腿の腓腹筋やヒラメ筋が強く侵されていることが分かります(図36)。筋生検では筋ジストロフィーの変化(筋線維の壊死、再生、結合組織の増加)があります。ジスフェルリン抗体を使って生検筋を免疫組織学的染色すると膜蛋白が欠損しているので診断が確定します。
図36:三好型遠位型筋ジストロフィーの筋CT像 ふくらはぎの中央部の横断像。
足の後面のヒラメ筋(★)、腓腹筋(★★)が
特に強く侵されている。
図36:三好型遠位型筋ジストロフィーの筋CT像

縁取り空胞型(リムドバキュオル型)遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles; Nonaka myopathy)
 常染色体劣性遺伝をとり、遺伝子座は第9染色体にあり、UDP-N-アセチルグルコサミン2−エピメラーゼ/N-アセチルマンノサミンキナーゼ(GNEと略されています)という酵素の遺伝子に変異があります(Nat Genet 2001; 29:83-87)。なぜ、この酵素が欠損すると病気になるのかはよくわかっていません。
 筋生検をすると、筋線維の中に細かい顆粒状の物質で縁取られた(rimmed)空胞(vacuole)があるのが特徴的で、縁取り空胞型変性とよばれています(図37)。本は筋ジストロフィーではありません。
図37:縁取り空胞(rimmed vacuole) 生検筋にゴモリトリクローム変法染色をすると、赤色の細かい顆粒状の集まりや、それが縁取った空胞がみえる。空胞をもつ筋線維の方が萎縮している。
図37:縁取り空胞(rimmed vacuole)

 縁取り空胞がどのようにしてできるのか、そのメカニズムはよく分かっていません。局所的な筋原線維の変性があり、それをリソソームというのが食べて消化します(これを自己貪食といいます)。その場所が縁取り空胞として認められるのです。ではなぜ、局所的な筋原線維の崩壊があるのでしょうか。その原因としてアポトーシスが関与しているとの説が提唱されています。
 症状は20−30歳台に現れることが大半です。下腿の前の方、すなわち前頸骨筋が最初に侵されますので、つま先がもちあがらず歩くときにちょっとした物に引っかかる。あるいはスリッパが脱げやすいなどの症状がみられます(図38)。すぐに下腿全体の筋肉が侵されるので、歩行が困難となります。平均10年くらいの経過で車椅子生活となります。心筋や呼吸筋は侵されにくいので生命的予後はよいとされています。
下腿の前面の前頸骨筋(→)
が萎縮するのが特徴的である。
図38:縁取り空胞型遠位型ミオパチー
図38:縁取り空胞型遠位型ミオパチー
筋線維の壊死は少ないので、血清クレアチンキナーゼ(CK)値は軽度上昇程度です。診断には筋生検が必要です。筋の侵され方に特徴(下腿は侵され、大腿後部のハムストリングは侵されるのに、大腿四頭筋はよく残るなど)があるので、筋CT/MRIが診断に役立ちます。
今のところ、治療法はなく、病気の進行を少しでも抑えるリハビリテーションが大切です。

☆眼咽頭遠位型ミオパチー(oculopharyngodistal myopathy)

日本の里吉栄二郎先生が最初に報告されました。眼咽頭型筋ジストロフィー(oculopharyngeal muscular dystrophy)とよく似ていますが、手足の先の方(遠位筋)が侵されるのが特徴です。

 常染色体優性遺伝ですので、家族の中に同じような症状の方がいます。この眼咽頭遠位型ミオパチーと眼咽頭型筋ジストロフィーが同じ病気かどうか長く論争が続いていました。最近わたしたちが遺伝子を調べたところ、多くの人は眼咽頭型筋ジストロフィーの遺伝子変異(PABPN1)をもっていませんでした。でも中にはもっている人もいました。すなわち多くの人は眼咽頭型筋ジストロフィーとは異なる原因で病気が起こっています。

 生命的予後はよく天寿を全うします。眼瞼下垂が強い人には眼瞼挙上術を、ものが飲み込みにくい人にも手術をすることがあります。



16.筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy)
 筋強直(ミオトニー現象:myotonia)とは筋肉が一度収縮した後に弛緩しにくい(もとの静止状態になるのに時間がかかる)ことを言います。たとえば患者さんに手をしっかりと握り、速やかに手を開くように命じても、手は急には開かないでゆっくりとしか指が伸びません(把握性筋強直: grip myotonia)(図39)。診察時に母指球筋を打腱器(診察用ハンマー)で叩くと、母指は内転し、すぐにはまっすぐにならないのです(percussion myotonia)。このような筋強直を主症状とする疾患にはいくつかの種類がありますが、最も代表的な疾患が筋強直性ジストロフィーです。
図39:筋強直 握る 図39:筋強直 開く
図39:筋強直
手をぐっと握りしめ(左)、すぐにパッと開くように命令しても
指(特に母指)がすぐに元に戻らない(右)。

a.病因・病態・病理
 本症は常染色体優性遺伝をとり、第19染色体長腕(19q13)に遺伝子座があります。遺伝子はクローニングされていて、その遺伝子産物は新しく見つかった酵素でミオトニンキナーゼ(myotonin kinase)(蛋白を燐酸化し活性化させる酵素)と命名されました。この酵素が病気の発症にどのように関与しているかはまだよく分かっていません。
 患者さんではこの遺伝子の3'側非翻訳領域にあるCTG(シトシン、チミン、グアニンの塩基)の繰り返し配列が増加しています。正常な人ではこのCTGの繰り返し配列は5−30回ですが、患者さんでは50-2,000 回にも達します。このように3つの塩基の繰り返しが増える病気がいくつか見つかっていて、それは3塩基繰り返し病(triplet repeat disease)と呼ばれています。全て常染色体優性遺伝の病気です。この繰り返しの数と臨床症状は相関するといわれています。また親より子ども、子どもより孫へと世代を経るに従ってこの繰り返しの数が増加し、症状は重くなる傾向にあります。このことを表現促進(anticipation)といいます。
 筋肉を顕微鏡でみると筋ジストロフィーのような壊死とそれに続く再生所見はほとんどありません。筋線維は細くなり、特にタイプ1(赤筋)線維が萎縮します。

b.臨床症状
 筋強直現象は筋力低下に先立ってみられることが多いといわれています。手がこわばってなかなかスムースに開かない、口の開閉も話しはじめに滑らかでない、歩行開始が円滑にいかないなどが主症状です。筋強直現象は同一動作を繰り返すと次第に軽減し、また精神的緊張、寒冷によって増悪します。
 筋力低下があきらかになる年齢は一定していませんが、普通子どもではあまり目立ちません。顔面筋は高頻度に侵され、表情に乏しく、頬がこけたような顔になります(筋性顔貌:myopathic face)。ときに上まぶたが下がり(眼瞼下垂)、ものが見えにくくなります。頸筋、咽頭筋が侵され、鼻声となったり、ものが飲み込みにくくなることもあります。
 筋肉の症状以外にもいろいろな症状を合併します。前頭部優位の脱毛が成人男性の80%、白内障は高頻度にみられますので、定期的な眼科の診察が必要です。内分泌系の異常(インポテンス、無月経、不妊など)、心筋症、便秘などの消化器の異常をみることもあります。

c.診断
 患者さんに手をぐっと握っていただき、ぱっと手をひろげるようにお願いします。しかしすぐにひろがらず、ゆったりと時間がかかります(把握ミオトニア)。筋電図は診断に役立ちます。筋肉に針電極を刺入すると、刺入電位が高く、持続が長いのが特徴的です。遺伝子診断を行えば診断はより確実となります。


[附] 先天性筋強直性ジストロフィー(congenital myotonic dystrophy)
 先天性筋強直性ジストロフィーは筋強直性ジストロフィーの母親(ごくまれに父親)から生まれた子どもに、新生時期から重い筋肉と中枢神経症状をみる病気です。遺伝子解析では、CTGの繰り返しの数は母親より、子供の方が圧倒的に多くなっています。
 新生時期から強い筋力と筋緊張低下をみとめます。重症例では呼吸の自立がなく、人工呼吸器が必要です。また燕下障害があると、経管栄養が必要となります。筋力低下は全身性で顔の筋力も弱く、表情に乏しく、口を常に半分開けています。乳児期に死亡するような重症例もありますが、成長とともに次第に回復していきます。しかし筋力低下がなくなることはありません。全例に知的障害を伴います。
 診断はまず母親の筋強直を確認することです。遺伝子解析で診断を確定することができます。



 筋強直性ジストロフィーについては、医学書院から「筋強直性ジストロフィーの治療とケア」責任編集:川井充、3,300円が出版されています(〒113−8719 東京都文京区本郷5−24−3 医学書院 電話03−3817−5600)。この病気の事が全て詳しく記載されていますのでご参照ください。

また、診断と治療社から「筋強直性ジストロフィー 患者と家族のためのガイドブック
ピーター・ハーパー著  川井 充,大矢 寧 監訳も出版されています。



17.ダノン病(Danon disease)
 X連鎖優性遺伝のまれな疾患で、全世界で数十例の報告があるにすぎません。肥大型心筋症とミオパチーが主な症状です。軽い知的発達遅滞を伴う例もあります。心筋症は、しばしば不整脈を伴い、突然死を来すことがあるため注意が必要です。ミオパチーは軽度なこともありますが、そのような例でも血清クレアチンキナーゼ(CK)値は必ず上昇しています。筋組織を見ると、筋線維内に多数の小空胞が見られます。電子顕微鏡で見ると、これらの空胞は多数の筋線維崩壊産物を含んでおり、自己貪食空胞あるいは自食空胞と呼ばれます。
この疾患は、リソソームの膜にあるLAMP-2(lysosome-associated membrane-2;ランプ・ツー)というタンパク質の欠損が原因で起こります。特徴的な空胞の出現に加え、筋組織を用いた免疫染色でLAMP-2の欠損が明らかになれば診断が確定します。自己貪食空胞はリソソームと融合し、リソソーム内にある分解酵素を利用して、空胞内部の物質を消化します。従って、ダノン病では、自己貪食空胞とリソソームとの相互作用に何らかの問題があり、空胞内部の物質をうまく消化できないのだろうと考えられています。
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