筋疾患のいろいろ その5

U.筋原性疾患(myopathies)

2.先天性ミオパチー(congenital myopathies)

 名のごとく乳幼児期早期からの筋力、筋緊張低下があり、多くは歩行を獲得しますが、以後も筋力低下が持続する疾患です。本症は進行性がなく、予後良好であると考えられ、以前の教科書には先天性非進行性ミオパチーと「非進行性」の言葉がつけられていました。しかし、多くの患者さんを長期にフォローすると緩徐ですが進行性のものが多く、また呼吸不全に陥り易いなどから「非進行性」の言葉が今は取り除かれています。

a.病因、病態、病理
 本症は病理学的特徴からいくつかの型に分けられています(表3)。
  ネマリン
ミオパチー
セントラル
コア病
ミオチュブラー
ミオパチー
CFTD *1
その他の
ミオパチー *2
筋肉特異構造
を示さないもの *3
遺  伝
 常染色体優性
 常染色体劣性
 X連鎖劣性


















発育・発達の遅れ
筋力低下
 外眼筋
 顔面筋
 咽頭・舌・頸筋
 近位筋優位
























筋 病 理
 
筋線維の大小不同
 タイプ1線維優位
 小径タイプ1線維


















+*4
 重症例の存在  

*1先天性筋線維タイプ不均等症,*2 Fingerprint,multicore,reducing body,sarcotubular myopathy など,
*3 minimal change myopathy ともいわれる,*4 タイプ1,2線維とも小径,筋原線維の配列の乱れ
表3:先天性ミオパチーの臨床と病理


 ネマリンミオパチー(nemaline myopathy)はその中で最も頻度が高い病気です。常染色体劣性、優性遺伝が報告されています。筋組織をGomoriトリクローム変法染色でみると、糸くず(nemaはギリシャ語で糸の意味)のような封入体をみることから、この病名がつけられました(図26)。
図26:ネマリンミオパチーの病理 正常筋(左)とネマリンミオパチー(右)の生検筋のGomoriトリクローム変法染色(筋疾患の診断には最も大切な染色。
簡単で30分以内に結果が出る)。
本症では筋線維内に赤黒色に染まる糸状ないし顆粒状の物質を多く認め、それが診断的意義をもつ。
図26:ネマリンミオパチーの病理
この封入体(ネマリン小体)は電子顕微鏡でみると、横紋筋の横じまの一番濃いZ線と同じ濃さをしています。またこの封入体は生化学的にもZ線が持つαアクチニン蛋白を持っています。どうしてこの病気ではZ線蛋白が過剰に作られるのか、分かっていません。さらに驚くべきことに、ネマリン小体の量と病気の重症度の間には全く関係がないのです。ネマリンミオパチーで、いままで分かっている遺伝子の変異は筋線維が収縮・弛緩するときに関係がある構造蛋白(トロポミオシン、アクチン、ネブリン)をコードするものです。トロポミオシンの変異は優性遺伝をとるもの、アクチンの変異は主として重症型に、ネブリンの変異は患者さんが最も多い常染色体劣性遺伝をとる良性先天型に多くみられています。

セントラルコア病(central core disease)は主に常染色体優性遺伝をとると考えられています。その遺伝子座は第19染色体にあって、リアノヂン(ryanodine)受容体遺伝子に変異がみられています。筋線維の中心部に筋小胞体やミトコンドリアがなく酸化酵素染色(NADH-TRなど)で中央部が果物の芯(core)をみるように染色されないのが特徴とされています(図27)。
図27:セントラルコア病の病理 正常の骨格筋をNADH-TR染色すると濃く染まるタイプ1線維とタイプ2線維がモザイクをなしてみられる(図16左参照)。
セントラルコア病ではほとんど全ての線維が、濃染するタイプ1線維で、筋線維の中心に酵素活性が無く果物の芯(コア)のように見える。
図27:セントラルコア病の病理
☆ミオチュブラーミオパチー(myotubular myopathy)は比較的良性の経過をとる常染色体優性(劣性もある)と、乳児期から重篤な症状をとるX連鎖劣性遺伝をとるものが知られています。筋発生途上にある筋管細胞(myotube)に構造が似ているので上記の名が与えられました。この病気では筋細胞の中心に核あるので、中心核病(centronuclear myopathy)と呼ばれることもあります。乳児重症型では筋線維は胎児の筋肉のように未熟のままです。乳児重症型ではX連鎖劣性遺伝をとるものが大半で、遺伝子はクローニングされていて、責任蛋白はミオチューブラリンと名付けられています。この蛋白はtyrosine phosphataseに属しますが、この酵素が欠損するとなぜ、筋の未熟性がくるのか、よく分かっていません。

☆先天性筋線維タイプ不均等症(congenital fiber type disproportion)は上記のような筋線維内の異常な封入体や構造異常がなく、タイプ1(赤筋)線維がタイプ2(白筋)線維より12%以上の差をもって小径である場合の診断名です。もちろん患者さんは乳児期から筋緊張低下、筋力低下があり、発達が遅れています。
 上記何れの疾患でも共通な重要な病理学的所見はタイプ1線維がタイプ2線維より小径で、タイプ1線維の数が正常上限の55%以上を占める(タイプ1線維優位:type 1 fiber predominance)ことです。さらに、筋線維径は全体に細く、未熟で未分化なものが多く存在します。筋線維タイプ分布の異常と未熟性が筋力、筋緊張低下の原因と考えられています。

b.臨床症状
 先天性ミオパチーはどの病気でも、乳児重症型、良性先天型、成人発症型の3型に分けられています。上記疾患(ネマリンミオパチーとかセントラルコア病とか)は病理学的には互いに明らかに所見が異なり、また遺伝子座も異なっているのに、臨床症状はきわめてよく似ています。たとえばネマリンミオパチーの患者さんと先天性筋線維タイプ不均等症の患者さんをみても、よく似ていて臨床的には鑑別が困難です。

1)乳児重症型(severe infantile form)
 最もよく知られているのはネマリンミオパチーとミオチュブラーミオパチーです。ネマリンミオパチーでは多くは、常染色体劣性遺伝をとると考えられています。重症型の10%位にアクチン遺伝子の変異があるようです。前に述べたように、ミオチュブラーミオパチーの場合はX連鎖劣性遺伝をとるので、ほとんどが男児です。
 新生児期からの呼吸困難、哺乳力低下があり、人工換気、経管栄養を必要とします。細長く、表情のない顔をしていて、高口蓋を認めます。手足の動きはほとんどみられません。手、足関節の拘縮、先天性股関節脱臼をしばしばみとめ、腱反射は消失しています。予後は不良で、大多数は1歳までに死の転帰をとります。

2)良性先天型(benign congenital form)
 先天性ミオパチーの大半の患者さんはこの良性先天型に属します。乳児期に発達の遅れがあり、筋力・筋緊張が低下したいわゆるフロッピーインファント(floppy infant)のことが多いです。歩行開始も遅れ、1歳半を過ぎることが多いです。歩行開始後も走れない、階段の昇降に手すりがいるなど筋力低下は持続します。なかには症状がほとんどなく、よほど専門的な知識を持つ医師でしか診断できないような軽症例もあります。筋力低下は非進行性か、あるいは進行してもとても緩徐です。
 筋力低下は全身にありますが、頸部屈筋が弱い(寝ていて頭がもちあがらない)のが特徴的です(図28)。顔面罹患がありますので、細長い顔で表情に乏しく、高口蓋があります。ただし、セントラルコア病では顔面筋罹患は少なく、正常と変わらないことが多いです。
図28:ネマリンミオパチー良性先天型 歩行は可能であるが、走れない、階段昇降困難を認めて診断のため来院した。

呼吸筋が弱く、さらに寝た位置から引き起こしても頭がついてこない(頸部屈筋の筋力低下)があるので先天性ミオパチーを疑われ筋生検し、診断が確定された。
図28:ネマリンミオパチー良性先天型
 咽頭筋の筋力低下があり、燕下困難を認めることもまれでありません。四肢筋に比較し、呼吸筋(特に横隔膜)が強く侵されることが多いので、定期的に呼吸機能をチェックする必要があります。心筋はほとんど侵されません。
 関節拘縮はしばしば病初期から認めます。セントラルコア病では四肢筋の筋力低下は軽度なのに、強い脊柱変形(側彎)をみることがあります。
 検査所見では、疾患特異的異常はありません。血清クレアチンキナーゼ(CK)値は正常ないし軽度上昇、筋電図は正常ないし筋原性所見を示します。

3)成人型(adult onset form)
ネマリンミオパチー、ミオチュブラーミオパチー(中心核病)での報告があります。良性先天型で幼少期にはきわめて症状が乏しく、成人になって急性増悪したものと、成人発症の2型があると考えられています。成人発症のものは病理所見だけで診断されていますので、良性先天型のような遺伝性はないのでしょう。原因も炎症、中毒などが考えられています。




3.炎症性筋疾患(inflammatory myopathies)

(1)多発筋炎(polymyositis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)

 炎症性筋疾患(多発筋炎)は表4のように分類されています。
T.成人型多発筋炎
U.成人型皮膚筋炎
V.小児および若年型皮膚筋炎
W.膠原病を伴う皮膚筋炎
X.膠原病を伴う多発筋炎
Y.悪性腫瘍に伴う皮膚筋炎
Z.悪性腫瘍に伴う多発筋炎
(Banker と Engel,1986)
表4 多発筋炎の分類
実際には原因不明の特発性の多発筋炎と膠原病に伴う多発筋炎、皮膚症状を伴う皮膚筋炎の3種が最も多く存在します。皮膚筋炎の中で小児皮膚筋炎は臨床症状、予後がよいなどの面から別疾患として分類されることが多いです。
 成人の多発筋炎(polymyositis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)は臨床的に厳密な区別がつけがたいものが多いので、ここでは一括して説明します。

a.病因、病態、病理
原因不明の特発性のものと、結合織疾患や悪性腫瘍に伴うものがあります。罹患筋では筋線維の壊死・再生とともに、単核球の細胞浸潤を間質、血管周囲に認めます。また単核球は壊死線維の周囲に集積して存在することもあります。このような細胞はCD8陽性のT細胞(cytotoxic T cell)が多いことより、T細胞によって筋線維が直接傷害されると考えられています。
 皮膚症状が特に顕著な筋炎は皮膚筋炎とよばれます。病理学的には血管炎が主で、しばしば虚血性の変化(筋束周辺萎縮、小梗塞像など)をみます(図29)。
図29:皮膚筋炎の病理 小さく黒く染まっているのは浸潤しているリンパ球。
筋束の周辺の筋線維が細くなっていることが(筋束周辺萎縮: perifascicular atrophy)診断的所見である。
図29:皮膚筋炎の病理
b.臨床症状
 主な臨床症状は筋力低下です。躯幹近位筋のことが多く、ごく例外的に筋力低下を局所的にみることがあります。頸部の屈筋群、咽頭筋がおかされることもまれでなく、その場合は嚥下困難をみます。急性期には発熱、筋痛、倦怠感、レイノー(Raynaud)現象を認めます。皮膚症状で典型的なものは上眼瞼に淡赤紫色の発疹(heliotrope rash)です。腱反射は消失ないし減弱します。
 慢性に経過するものは、近位筋の筋力低下で気付かれます。筋ジストロフィーとの鑑別が困難なこともまれではありません。
 成人例では約20%に腫瘍の合併があり、特に40歳以上で皮膚筋炎の場合はその可能性が高いといわれています。腫瘍が発見される以前に筋症状が出現することもあります。腫瘍の中では肺癌が特に多くみられます。結合織疾患としてはエリトマトーデス、慢性関節リューマチ、シェーグレン症候群が代表的です。
 小児皮膚筋炎は成人の皮膚筋炎と異なり、悪性腫瘍を伴うことはなく、予後は良好です。皮膚症状は眼瞼周囲の紅斑、手足関節周囲の発疹です。症状は急性で、筋力低下は近位筋優位にみられます。病理学的には筋束周辺萎縮(perifascicular atrophy)と血管炎を主病変とします。ステロイドが著効しますので、早期診断、早期治療開始が重要です。
 類肉腫性筋炎(granulomatous myositis)はサルコイドーシスとの関連性が深いと考えられています。サルコイドーシスは全身性の疾患で骨格筋の症状を伴うことはまれとされていました。しかし、症例によっては筋症状が前景に立つことが知られています。さらに筋内にサルコイド結節を証明しても全身性の所見に欠けることもあります。これらは類肉腫性筋炎として区別してよばれていますが、多分サルコイドーシスと同一なものではないかと考えられています。

c.検査所見
 急性期には赤沈の亢進、白血球の増加があります。血清CK値は上昇します(皮膚筋炎では正常のこともある)。自己免疫疾患と合併した例では免疫グロブリン(α2、γなど)の増加があり、RA(リュウマチ)、LE因子が陽性となります。

d.治療
 ステロイド剤が第一選択です。成人では60mg/日より開始し、症状、血清クレアチンキナーゼ(CK)値、赤沈値などの値をみて次の治療方針をたてます。激症で筋力低下が急速に進むものはステロイド大量点滴(パルス)療法、血漿交換が行われることもあります。少なくとも一ヶ月間継続します。次にステロイド抵抗例には免疫抑制剤を使用します。
 慢性例では関節拘縮の防止、筋力低下防止のためのリハビリテーションが必要です。

(2)封入体筋炎(inclusion body myositis: IBM)

a. 病因、病態、病理
主として50歳以降の高齢者、特に男性に多くみられる特異な筋炎です。筋病理で、筋線維間へのリンパ球浸潤とともに、筋細胞の核内に細い管状(直径約20nm)の封入体をみることから、上記の名称が与えられました。封入体は電子顕微鏡でしか確認できません。電子顕微鏡でみると、核内だけでなく、細胞質にも封入体をみます。封入体をもっている筋線維は光学顕微鏡で見ると縁取り空胞(rimmed vacuole)(図37)を持っています。ですから筋生検で縁取り空胞をもつ筋線維の存在と筋炎の所見の両方を確認すれば診断が可能です。原因は慢性のウィルス感染説などがありますが、よく分かっていません。

b.臨床症状
多くは歩行の異常で気づかれます。大腿前面の筋力低下、筋萎縮、それに上肢では前腕部内側の筋萎縮、筋力低下がきます。ものが握りにくい、握る力が入らないことで気づかれることもあります。経過は人によって異なりますが、発症後数年で車いす生活となる人もいます。検査ではあまり特異的な変化はありません。血清クレアチンキナーゼ値も正常かやや上昇する程度です。

c.治療
副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤など多くの試みがされていますが、あまり効果は期待できません。筋萎縮予防のリハビリが中心です。心臓や呼吸筋は侵されにくいので、生命的な予後はよいとされています。
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